- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 1996/04/18
- メディア: 文庫
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1996年、第3回日本ホラー小説大賞佳作受賞。応募時タイトル「ISOLA」。同年4月、角川ホラー文庫より発売。
ベストセラー作家貴志祐介が世に出た初めての作品。読んでいる途中は、「なぜこれが佳作?」と思いながら読んでいたのだが、読み終わって納得した。さすがに大賞までは届かない。もっとも翌年、『黒い家』という傑作が出たから結果オーライだったが。
主人公の賀茂由香里がエンパスという設定はちょっと安易かと思ったが、もう一人の主人公である多重人格の少女森谷千尋を理解するためには一番わかりやすい設定である。ただ、震災が原因で生まれた「ISOLA」は、謎としては面白かったけれど、ホラーとしてはちょっと反則な真相ではなかったか。個人的には少々古くさいと思い、拍子抜けしてしまった。ISOLAと「吉備津の釜」の絡みが面白かっただけに、ちょっと残念である。精神科学との融合が上手くできていただけになおさら。ただ、鬼ごっこの展開は少々エンタメを意識しすぎている。
由香里の多重人格のネーミングには非常に感心した。また結末はかなり怖い。こうやって見てみると、部分部分はいいのだが、全体的には少々構成の甘さを感じる。13人も登場させる意味は無かったよね、これ。エンパスならではの由香里の苦悩などは詰め込みすぎと思った。逆に由香里と大学准教授との関係をもう少し書き足せば、二人の恋愛に唐突な印象を与えなかっただろう。あの准教授のどこに惚れたのか、読み終わってもさっぱりわからない。
どうでもいいけれど、風俗で働きながら、キスの経験すら無いというのはちょっと無理がないか。
よくできた話だとは思う。他の賞なら大賞に選ばれてもおかしくはなかったと思うが、この頃はまだ選考委員も高いレベルの作品を目指していたのだと思われる。