平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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堀井拓馬『なまづま』(角川ホラー文庫)

なまづま

なまづま

激臭を放つ粘液に覆われた醜悪な生物ヌメリヒトモドキ。日本中に蔓延するその生物を研究している私は、それが人間の記憶や感情を習得する能力を持つことを知る。他人とうまく関われない私にとって、世界とつながる唯一の窓口は死んだ妻だった。私は最愛の妻を蘇らせるため、ヌメリヒトモドキの密かな飼育に熱中していく。悲劇的な結末に向かって……。選考委員絶賛、若き鬼才の誕生! 第18回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

2011年、第18回日本ホラー小説大賞長編賞受賞。同年10月、ホラー文庫より発行。



死んだ愛妻を甦らせるというのは、それこそ神話の時代からあった話でありきたり。それを「ヌメリヒトモドキ」というグロテスクな生物から生み出そうという発想は結構凄い。ヌメリヒトモドキに恐怖感はないけれど、文体から滲み出てくる不快感は相当なものである。それと、イイジマ個体への拷問……もとい、実験は非道かったな。

日記の記述みたいな書き方も、終わってみるとそれほど読みづらくはなかった。最初は非道い文章だと思っていたが、読んでいる途中で慣れる文章だったのだろう。とはいえ、選評で言う「読みにくい」という指摘もわからないではない。応募作品を加筆修正しているとあるから、それなりに書き直しているのだろうが。

ただ、主人公と妻の距離感が今一つわかりにくい。一人語りだから仕方がないが、それでも後半の展開は違和感が残るし、結末のドンデン返しが今一つ盛り上がらない理由にもなっている。それと、カンナミ研究員が主人公に惚れている理由もよくわからない(まあ、これはどうでもいいか)。ヌメリヒトモドキという存在が出てくるのに、結局一個人の話で物語が終わってしまうのは残念。地球への影響をもうちょっと書いてほしかったところである。

執筆時23歳という若さには驚いた。筆力はある。次に何を書いてくれるのか、楽しみな作家である。