- 作者: 水野泰治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/06
- メディア: 文庫
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1987年12月、講談社ノベルスより刊行された作品の文庫化。
水野泰治を読むのは初めて。何冊か粗筋を読んだことはあるが、この人のイメージは「無駄にトリッキーな作家」である。使う必要のないところで、機械トリックを用いる、ミステリに慣れていない人。そして初めてこの人の作品を読み、その印象は間違っていなかったことを知る。
愛憎渦巻く豪邸のなかで次々とおこる密室殺人。うまく書けば、新本格ブームに乗ることもできただろう。しかし、密室トリックが、無理矢理にひねり出したという印象しか読者に伝わってこない。自らの頭のなかで租借しきれなかったのだろう。登場人物が俗物過ぎて、機械トリックとマッチしない。それもまた、トリックが浮いた原因の一つになっている。
本当なら名探偵役になりそうな登場の仕方をした女刑事が、途中で殺害されてしまうというのは意外な展開を狙ったものなのかもしれないが、この作品ではマイナスポイントにしかなっていない。まあ、男女同権を訴えながらレディファーストを守らない男を罵るタイプの女性だから、殺されても読者からの同情が得られないだろうからそれほど惜しいとは思わなかったが。ただ、事件の謎を解くのがあの刑事というのは拍子抜け。それもまた、この作品につまらない印象を与えている。
ミステリに慣れていない人という印象は、解説を読んでよくわかった。元々は雑誌のアンカー。1978年、集英社の操業五十周年で募集された「一千万円懸賞小説」を『殺意』で受賞。作家活動に入るが、その後は伝記、歴史小説と並行してミステリを発表。ただし作品数は少ない。1990年以降、ミステリの著作はない。
どうでもいいけれど、最近は画像のない作品ばかり選んでいるな。