平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大下宇陀児『宙に浮く首』(春陽文庫)

宙に浮く首 (1961年) (春陽文庫)

宙に浮く首 (1961年) (春陽文庫)

信州の雪深い山村である飯沼村で19歳の娘が殺された。アホウと呼ばれている目撃者は犯行があった深夜に、胴体も何もない首が帽子をかぶり、宙を浮いていたと証言した。村に住む資産家の犯罪研究家が、鮮やかな推理を見せて犯人を指摘。犯人はいち早く逃亡したものの、証拠が出てきて事件は解決した。4年後、飯沼村に住むある青年が、東京で近年評判の私立探偵を訪ねた。1930年作の短編「宙に浮く首」。

数年ぶりに外国から帰ってきた青年は盲人となっていた。しかも性格が変わってしまい、資産家である母や弟、そして婚約者も寄せ付けない。何か秘密があるのではと疑う弟と婚約者であったが、ついに殺人事件が発生した。1930年作の短編「たそがれの怪人」。

32歳で役所の官制が廃止となり、そのまま無職となった小田切は千葉の勝浦に旅行へ出かけるが、列車で男装した女性に目を留める。彼女は誰かから逃げるため、列車から飛び降りた。短編「画家の娘」。

1951年4月刊行。1976年9月、第8刷。



古本で買ったのか、新刊で買ったのかが覚えていない。多分近所にあった本屋が古い春陽文庫を売れないまま置いていた(『鉄鎖殺人事件』などもそこで買ったし)から、そこで買ったものだろう。その本屋には大分お世話になったが、数年前に帰った時にはつぶれていた。残念なことである。部屋を片付けていたら、昔買った本が出てきたので、懐かしくなって読んでみた。

大下宇陀児といえば『虚像』などの作品を思い浮かべるが、本作品集は通俗作品ばかりを集めたもの。短編「宙に浮く首」ではその名の通り宙に浮いている首を見た、という目撃証言が出てくるが、そのトリックについていえばはっきり言って残念もの。しかもその謎は序盤で解けてしまうし、以後はタイトルとは関係ない話が続く。事件の動機は、執筆当時の時代背景を物語っている。これ、現代じゃ復刻するのは難しそう。

短編「たそがれの怪人」は、いくら何でもそれはないだろう、と言いたくなるぐらいの設定。短編「画家の娘」はラストの盛り下がりが残念な作品。

どれも書き飛ばしたとしか思えないような出来の作品ばかり。人気があって、よっぽど忙しかったのだろうか。