平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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夏樹静子『密室航路』(角川文庫)

密室航路 (角川文庫)

密室航路 (角川文庫)

恋人へ会いに、東京から高知行きの大型フェリーに乗った総子。その船内で、会社社長が特等室で血だらけの死体となって発見された。密室状態であったことから、自殺であると警察は判断したが、社長の妻とともに死体を発見した総子はある疑念を抱いた。「密室航路」。

杉江警部補は、指名手配中の強盗殺人犯を追うため、大井川鉄道に乗り犯人の故郷である山村へ向かう。「逃亡者」。

バンクーバーへの社用旅行中、観光バスが事故に遭う。炎があがるバスの中から辛うじて逃げ出した堺社長、長谷専務であったが、堺の息子、洋一がバスの中に取り残されたままだった。長谷は炎の中、洋一を助けにいくが、二人とも大やけどで亡くなってしまう。なぜ長谷は洋一を助けにいったのか。日本に帰った堺は弁護士の真田に相談する。「バンクーバーの樹林から」。

福岡に住む沢田光子の元へ小牧警察署から電話があった。姉である吉実が名古屋空港のそばで殺害されていた、と。なぜ吉実は名古屋へ行ったのか。アリバイトリックに挑む光子。「結婚しない」。

米子発東京行きの航空機90便は、急遽大島空港へ着陸することになった。実は脅迫状が届けられたからだったが、犯人は姿を現さなかった。犯人の狙いは何だったのか。「90便緊急待避せよ」。

昭和50年代前半に雑誌に発表された5つの短編を集め、昭和55年にカッパ・ノベルスから刊行された作品の文庫化。



船、鉄道、バス、飛行機といった乗り物を扱った短編を集めた、交通ミステリ短編集。といっても、たまたま書いた短編を集めてみたら、交通ものがそろったからそれでまとめよう、といった程度のものだろう。密室もの、アリバイもの、サスペンスもの、人情ものなど、内容はバラエティに富んでいる。どんなものでもうまく書くことができるんだな、と夏樹静子の実力を感じさせる一冊。個人的には殺人も事件も出てこない「バンクーバーの樹林から」がお勧め。