平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

犯罪の世界を漂う

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無期懲役判決リスト 2022年度」に1件追加。
「求刑無期懲役、判決有期懲役 2022年度」に1件追加。

 判決有期の方は、3月18日の福岡地裁の判決です。まさか、求刑無期で一審判決の記事が一切載らないということがあるとは思いませんでした。情報を送っていただき、ありがとうございました。

 上記判決は天草の覚醒剤密輸事件です。この事件、24人逮捕されて16名が起訴されています。まだ判決がわかっていない被告もいます。報道が全然されません。困ったものです。地元紙の熊本日日新聞にも、なかなか載っていません(裁判が福岡地裁だからかな)。数少ない報道も、ほとんどは読売新聞です。

 地方の判決だと頼れるのは読売新聞の地方版です。昔は朝日の地方版もそれなりに載っていましたが、最近は減っていますね。

 

若竹七海『さよならの手口』(文春文庫)

 探偵を休業し、ミステリ専門店でバイト中の葉村晶は、古本引取りの際に白骨死体を発見して負傷。入院した病院で同室の元女優に二十年前に家出した娘探しを依頼される。当時娘を調査した探偵は失踪していた――。有能だが不運な女探偵・葉村晶が文庫書下ろしで帰ってきた!(粗筋紹介より引用)
 2014年11月、文春文庫より書下ろし刊行。

 

 「仕事はできるが不運すぎる女探偵」葉村晶シリーズ第三作となる書き下ろし長編。前作『悪いうさぎ』から13年ぶりの登場(ただし、短編「蠅男」「道楽者の金庫」に登場している)。31歳だった葉村は40過ぎになっている。住んでいた新宿区の建物は地震で住めなくなって、調布市千川のシェアハウスに引っ越している。長谷川所長が引退して長谷川探偵調査所が閉鎖され、貯金があったので探偵休業中。旧知の富山泰之に頼まれ、吉祥寺のミステリ専門店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉でアルバイト中。先に『静かな炎天』『錆びた滑車』を読んでいたのだが、こういう経緯だったのか(苦笑)。
 アルバイト中に白骨死体を発見して負傷という、出だしから不運すぎる。さらに元トップ女優から二十年前に家出した娘探しを依頼されて探し始めると、当時調査した探偵が失踪している。単純な捜査に見えて、どんどんと複雑化していく流れは絶妙。気が付いたら娘探し、失踪した探偵、そして古本屋で知り合った女性の裏と、複数の捜査を一人で追う展開となってしまい、やっぱり葉村は不運としか言いようがない。それでいて、読んでいる方に消化不良を起こさせるような迷走は全くなしという筆さばきは見事。
 13年ぶりの書き下ろしということもあってか、作者も相当力が入っている。ただ、気負いを感じさせないところはさすが。素直に脱帽します。やっぱりうまい。ただ、ミステリに関する蘊蓄は、もっと少なくてもいいんじゃないかな。自分もミステリ好きだから楽しく読んでいたけれど、よくよく考えるとそこまで書かなくてもいいような。

イアン・ランキン『黒と青』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 1960年代にスコットランドを震撼させた絞殺魔“バイブル・ジョン”。事件は迷宮入りとなっていたが、それから三十数年、同様の手口の事件が起き、リーバス警部は捜査に乗り出した。はたして伝説の犯人が帰ってきたのか、あるいは模倣犯の仕業か? 折りしもリーバスが昔担当した事件で服役中の囚人が冤罪を訴えて獄中で自殺。警察の内部調査が開始されることとなった。四面楚歌の状況のなか、リーバスの地を這うような捜査が続く。ミステリ界の次代を担う俊英が放つ傑作警察小説、遂に刊行!(粗筋紹介より引用)
 1997年、発表。同年、英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞。1998年7月、邦訳刊行。

 

 エジンバラを舞台とするジョン・リーバス警部シリーズ長編第8作目。イアン・ランキンの長編が邦訳されたのは、本作が初めてであった。タイトルはローリング・ストーンズのアルバム『ブラック・アンド・ブルー』から来ている。
 リーバス警部は第1作では若い刑事だったとのことだが、本書では五十男で、クレイグミラー署犯罪捜査部に転勤している。離婚しており、別れて暮らす娘が一人。冴えない見た目であるし、酒は飲みすぎ、煙草は吸いすぎ。上司の命令には従わず、一人で行動するなどの問題児。しかし上司や権力、闇の組織を恐れず、犯罪を悲しみ、部下には優しさを示す。
 本書では北海の石油掘削基地の労働者が転落死した事件を追うものの、昔担当した事件の犯人が服役中に冤罪を訴えながらも自殺したため、マスコミの注目を浴びる。しかもその時の捜査の違法性を問われることに。一方、スコットランドでは迷宮入りした過去の連続殺人事件と同様の手口による連続殺人事件が発生しており、さらに麻薬売買に絡む殺人事件も発生。同時に複数の事件が進行するモジュラー型のストーリーだが、どれにもかかわってしまうことで精神的に追い込まれながらも、リーバスは一人で事件に立ち向かっていく。
 ハードボイルド風味の警察小説といった感じ。個人的には好きになれないタイプのリーバス警部だが、事件を追いかける執念はすごい。そこに引き込まれた。とはいえ、読んでいて疲れるな、モジュラー型は。ストーリーを把握するのには苦労した。だけどじっくり読みこめば、エジンバラの描写も含め、イギリスの舞台を楽しむことができた。時間があるときに、ゆっくり読むべき作品。

『お笑いスター誕生!!』の世界を漂う

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お笑いスター誕生!!」新規情報を追加。ツーツーレロレロの漫才です。この頃の東って、ときどき気の抜けた顔をしていたのが嫌でした。

清水潔『殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮文庫)

 5人の少女が姿を消した。群馬と栃木の県境、半径10キロという狭いエリアで。同一犯による連続事件ではないのか? なぜ「足利事件」だけが“解決済み"なのか? 執念の取材は前代未聞の「冤罪事件」と野放しの「真犯人」、そして司法の闇を炙り出す――。新潮ドキュメント賞日本推理作家協会賞受賞。日本中に衝撃を与え、「調査報道のバイブル」と絶賛された事件ノンフィクション。(粗筋紹介より引用)
 2013年12月、新潮社より単行本刊行。2014年、新潮ドキュメント賞日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞。2016年6月、文庫化。

 

 正直言って売れすぎていたので、読む気にならなかった一冊。時間ができたので、手に取ってみた。
 清水潔の主張が強すぎるところがあり、その圧に圧倒されると同時に反発を抱くところもある。それでも女児たちの無念を晴らそうと真犯人に迫るその姿は、鬼気迫るものがある。「調査報道のバイブル」と言われるだけのことはある。もっともこれだけの時間と金をかけるのは、よほどのバックでもない限り難しいだろうが。
 もっとも、その後に変わったものがあるかと言われると、あまりない。とくに警察と大手マスコミは何も変わっていない。「関係者からの取材で明らかになった」と書かれている内容が、裁判では全く出てこないこともよくある話だ。ホットな話題のうちに他社より先に記事にできればいいのだろう。特にネット記事が増えるようになって、その傾向が強くなった感がある。ネット上で書かれたことが、紙ではないことも多い。それは紙数の制限だけが原因ではないはずだ。
 ちょっと気になったのは、清水潔が冤罪報道に興味がなかったという事実。これは意外だった。特に足利事件は、裁判中からDNA鑑定に問題がありと騒がれていたのに全く知らなかったというのだ。報道関係者でも知らなかったのだから、裁判で無実だ、冤罪だと叫んでも、本当に無罪が確定しない限り、世間へは広がらないのも無理はない。