平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)

 総統の自死戦勝国による侵略、敗戦。何もかもが傷ついた街で少女と泥棒は何を見るのか。1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅出つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり――ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。最注目作家が放つ圧倒的スケールの歴史ミステリ。(粗筋紹介より引用)
 2018年9月、書下ろし刊行。

 

 第二次大戦降伏後のベルリンが舞台。いつ読もうか迷っていたが、今、この時期だから読んだ方がいいかなと思って手に取ってみて正解だった。戦争というものの残酷さと虚しさがよく伝わる作品だった。
 最初こそ殺人事件が発生するが、メインの話は戦後のドイツ、ベルリンの風景である。戦争中は政府や軍隊に守られつつも最後は見捨てられ、そして敗戦後は占領軍に蹂躙され、屈辱を受ける。それでも人々はたくましく生き延びようとし、現状に絶望しながらも未来に輝かしい路があると信じて突き進んでゆく。
 国とは何か。そして国民とは。いろいろ考えさせられる話である。果てしなく重い。それでいながら、エンターテインメントな作品にも仕上がっているのだから、大した筆力である。
 戦争を経験していない人が、よくぞこれだけ書けたものだと感心する。しかも、日本ではなく、ドイツである。圧倒されてしまった。その一言に尽きる。