- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/03/20
- メディア: 単行本
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『小説新潮』『小説すばる』等に掲載。2014年3月、単行本刊行。同年、第27回山本周五郎賞受賞。
緑1交番所属の川藤浩志巡査は、夫の田原勝が暴れていると110番通報があったため上司2人とともに駆けつけると、田原が短刀で切りかかったため、拳銃で発砲。田原は死亡し、そして切り付けられた川藤も殉死した。普通の殉職事件に見えたが、上司の柳岡は葬儀場でつぶやく。「あいつは警察には向かない男だった」と。「夜警」。発砲事件の思いがけない真相を書いた一幕。意外な真相は思わず膝を打ったものの、伏線の張り方はちょっとやりすぎという気がしなくもない。
職場の人間関係の不調で姿を消した彼女の佐和子は、実家がある栃木の山奥の温泉宿で働いていた。近くに火山ガスが溜まりやすい窪地があるため、自殺志願者が楽に、綺麗に死ねるということから宿の客は途切れず、死人宿と呼ばれている。佐和子は宿泊しに来た私に、脱衣場に遺書があったと告げる。他に泊まっているのは3人。果たして誰の遺書か。「死人宿」。発想は面白いが、推理の面白さには欠けている。そもそも、女主人公の感性に着いていけない。
美人で評判のさおりは、大学のゼミで知り合った佐原成海をめぐる女性同士の争いに勝ち、在学中に婚約。父親は「あの男は駄目だ」と反対するも、子供ができたことから結婚。夕子という娘が生まれた。二年後には月子という娘も生まれた。しかし父の言葉は正しかった。成海は大学卒業後も定職に就かず、胡散臭い人たちと付き合っていた。夕子が高校受験を迎えた年、さおりは離婚を決意した。「柘榴」。個人的には一番好きな作品。恋するときはロマンチストで、結婚したらリアリスト、というわけですか、女性というものは。男として、こういう男はどうかと思うが。
商事会社に就職した伊丹は、希望通り東南アジアの天然ガス開発のプロジェクトに参加し続けた。そして二年前、部長待遇の室長としてバングラディッシュに派遣された。物資集積拠点としてボイシャク村に目を付けたが、村の者は交渉を拒否し、交渉に行った部下はリンチに遭った。しかし伊丹は豊富な資源を持つこのプロジェクトを成功させたかった。「万灯」。本短編集で一番長い作品。ええっと、肝心なところでミスがあるのが残念。そもそも、いくらジャパニーズビジネスマンとは言え、ここまで強引な人物がいるかね。もうちょっと説得力があるような書き方をしてほしかった。
伊豆にある桂谷峠ではこの四年、峠道から崖の下に転落する事故が四件発生し、五人が死亡していた。何でも屋ライターの俺は先輩から紹介され、この崖で転落死する都市伝説を書くために、峠を訪れた。そして途中、寂れたドライブインを発見する。「関守」。ありきたりな話で、面白みに欠ける。
夫を殺害して服役していた鵜川妙子が満期出所した。弁護士の私は学生時代、鵜川夫婦の畳屋に下宿させてもらっていた。私は弁護士となって初めて担当したこの殺人事件のことを思いだす。一審で懲役八年を言い渡され、控訴審の途中で妙子は控訴を取り下げた。それはいったいなぜだったのか。「満願」。肝の部分で法律的なミスがあることが残念。そもそも動機も今一つだし。
山本賞を受賞したということで期待していたのだが、残念ながら今一つ。読んでいてつまらないということは無いのだけれど、どうも詰めが甘いというか。わざと寸止めするのが作者の美学なのかな。