平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

ジェレミー・ドロンフィールド『飛蝗の農場』(創元推理文庫)

飛蝗の農場 (創元推理文庫)

飛蝗の農場 (創元推理文庫)

ヨークシャーの荒れ野で農場を営むキャロルのところに、謎めいた男が転がりこんできた。嵐の夜、雨宿りの場所を請う男を警戒してことわる一幕を経て、不幸な経緯から、キャロルはショットガンで男に怪我を負わせる。看護の心得のある彼女は応急処置をほどこし、回復までの宿を提供することにしたが、意識を取りもどした男は、過去の記憶がないと言う。何もかもが見かけどおりでないのかもしれない。そんな奇妙な不安のもとに始まる共同生活――背後で繰りひろげられる異様な逃避行! 幻惑的な冒頭から忘れがたい結末まで、圧倒的な筆力で紡がれる悪夢と戦慄の物語。驚嘆のデビュー長編。(粗筋紹介より引用)

1998年、イギリスで発表。2002年3月、翻訳。



このミステリーがすごい! 2003年版』海外編第1位、『週刊文春』2002年傑作ミステリーベスト10/海外部門第3位と評価された作品。ずっと気にはなっていたのだが、わずか3名という登場人物にやや恐れを抱いて、積ん読状態だった1冊。訳者あとがき、解説の冒頭で書かれている言葉を、私も書きたい。「なんだ、これは」。

メインであるキャロルと、記憶喪失のゴールドクリフがメインのストーリーと並行し、登場人物欄には一切出てこない人物たちのサイドストーリーが時も場所もバラバラで挟まれている。これがメインとどう結びつくかと思ったら、いつしか「汚水溝の渉猟者」に追われる男の逃亡物語であることがわかり、そして過去の連続猟奇殺人事件がつながってくる。正直言って読んでいてもわかりにくい構成なのだが、ストレートに時系列を並べると簡単にわかってしまうので仕方がない。とはいえ、エロ成分が多いこともあり、苛立ったことも確かだが。

ようやく物語の全貌が見え始めるとストーリーは一気に進むのだが、この展開が何ともサイコ。この狂気が苦手だなと思いながら読んでいくと、最後はなんとリドル・ストーリー。なんだ、これは。

一応サイコ・スリラーなんだろうが、何がやりたいのかさっぱりわからない。私には理解不能な長編だったが、こういう作品が好きな人にはたまらないだろう、というだけの妙な迫力がある。主人公のキャロルの職業が、バッタの農場というのも不気味。ただ、バッタはもっと物語と絡むと思ったんだけどね……。個人的にはあまりお薦めしない。わけがわからなくなること、間違いなしだから。