平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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石黒耀『死都日本』(講談社ノベルス)

死都日本 (講談社ノベルス)

死都日本 (講談社ノベルス)

20XX年、天孫降臨伝説で有名な宮崎県の霧島火山に噴火兆候が現れる。普通の火山活動と思われたそれは、やがて驚くべき霧島の正体をあばきはじめた。高まる緊張。募る不安。そして迎えたXデー……。多くの人々の災害観を圧倒的な筆力と、怒涛の論理展開で覆し、火山学者に激賛された第一級のクライシスノベル誕生! 第26回メフィスト賞宮沢賢治賞奨励賞、日本地質学会表彰受賞作。(粗筋紹介より引用)

2002年、第26回メフィスト賞受賞。2002年9月、単行本刊行。2005年、宮澤賢治賞(奨励賞)受賞。同年、日本地質学会表彰。2007年10月、ノベルス化。



霧島火山の噴火で宮崎県と鹿児島県が一時間でほぼ全滅し、一日で日本が壊滅する危機。何とも恐ろしい話だが、実際に起りうる可能性がある。7300年前に起きた鬼界カルデラの噴火が現在の日本に起きたら、という話である。

狂言回しの黒木伸夫と岩切年昭の動きはどうかと思うが、噴火が起きてからの描写は見事なぐらいリアル。はっきり言って、怖い。しかも実際に起きる可能性があるかと思うと、より恐怖が増してくる。それでも暗くなるだけの作品にならない書き方が巧い。よく描けていると思う。

ただ、日本政府が事前に準備し、対処するあたりの動きはさすがに絵空事だよなと思ってしまう。もちろん、国にはこれぐらい迅速に対処してほしいものだが、そこまでの実力があるとは思えない。

作中で使われている「破局噴火」は作者の造語だが、現在では研究家たちにも使われている言葉となっているのが面白い。それだけインパクトのある作品だったのだろう。

一言で言えば、感心する一冊。ここまで調べ上げて、かつ専門的な言葉も取り入れながら、エンターテイメントとして書き上げた筆力には脱帽した。物語を創造する力とは別の部分のような気もするが。