平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大倉崇裕『福家警部補の再訪』(東京創元社 創元クライムクラブ)

福家警部補の再訪 (創元クライム・クラブ)

福家警部補の再訪 (創元クライム・クラブ)

鑑識不在の状況下、警備会社社長と真っ向勝負(「マックス号事件」)、売れっ子脚本家の自作自演を阻む決め手は(「失われた灯」)、斜陽の漫才コンビ解消、片翼飛行計画に待ったをかける(「相棒」)、フィギュアに絡む虚虚実実の駆け引き(「プロジェクトブルー」)……好評『福家警部補の挨拶』に続く、倒叙形式の本格ミステリ第二集。(粗筋紹介より引用)

ミステリーズ!』に2006〜2007年、掲載。2009年5月、刊行。



テレビでも売れている警備会社社長・原田明博は、私立探偵会社経営の頃、強請屋をしていた。当時の仲間だった川上直巳が過去をばらすと金を要求し続けてきたのも限界となり、豪華クルーズ船マックス号内にて金を渡すと嘘をついて呼び寄せ、船内で殺人。直巳の債権者の部下も乗客におり、計画は完璧に見えた。しかし、別の事件で船内を捜査し、そのまま船を降り損なった福家警部補が、事件に乗り出す。「マックス号事件」。

人気脚本家の藤堂昌也は、デビュー作が盗作であると突き止め、金を要求してきた古物商の辻伸彦を殺害する計画を立てる。アリバイとして、藤堂のファンである俳優志望の三室勘司をだまし、自信が誘拐されていたように見せかけた。辻を予定通り殺害し家を全焼させ、三室は正当防衛に見せかけて殺害した。計画は完璧に見えたが、誘拐事件の捜査に乗り出していた福家警部補は、辻殺害事件との関連を探し当てる。「失われた灯」。

落ち目の漫才コンビ、山の手のぼり・くだりののぼりこと立石浩二は、最近ミスが多い相棒のくだりこと内海珠雄と別れて独立し、ピンで活動するように勧められていた。立石は乗り気だったが、内海は師匠の命日である半年後まで解散を待ってほしいと訴える。立石はかつて稽古を重ねていた別荘で、内海を事故に見せかけて転落死させた。「相棒」。

玩具企画専門会社スワンプ・インプの社長である新井信宏に、自称造形家の西村博が脅迫してきた。新井は学生時代、当時大人気のミリバール人形の贋物を作って売っていいた。そのことを嗅ぎ付けて金を要求してきた西村を、新井は殺害する。捜査で訪れた福家警部補に対し、事件当日は発表されたばかりの新ブルーマンのフィギュアを造っていたと主張した。「プロジェクトブルー」。



小柄でとても刑事には見えない福家警部補シリーズの、『福家警部補の挨拶』に続く第2作。例によって、買うだけ買って忙しくしているうちに、いつの間にかダンボールの奥底に眠っていた。

著者が大ファンである『刑事コロンボ』を受け継ぐかのような、倒叙もの。犯人の小さなミスを手がかりに、事件の真相を暴き立てるのは、全作変わらない。とはいえ、4作読んでしまうと、同じパターンでは飽きが来てしまうことも事実。となると、事件自体で何らかの違いを見せなければいけないところだが、4作中3作が脅迫されて殺人を実行するというのは、少々安易ではないか。確かに殺人はそう簡単に手を出せないだろうが、もう少し"悪"を強調した犯人がいてもいいだろうにとは思った。

「マックス号事件」は犯人のミスから真相が露呈するが、そもそも福家警部補がこの犯人に目を付けた理由が書かれていたっけ? そこが非常に気になった。

「失われた灯」はアリバイトリックがかなり強烈なもの。とはいえ、「頭のいい」犯人なら、殺人を2件犯すことでミスを犯す確率が2倍以上になりやすいことに気づきそうなものだが。脚本家なら、俳優が自らの脚本に忠実に動くかどうかすらわからないことに気づいてほしい。まあ、余計な話ではある。

「相棒」は、実は証拠がないんじゃないか。心理的な追い詰めはわからないでもないが、かなり危ない綱渡りだったと思う。警察がそのようなことをしていいのだろうか、という気もする。それと、師匠の名前がこだま・ひかり、というのは、いくら屋号が違うとはいえ実在した漫才コンビだったから、これは止めてほしかった。

「プロジェクトブルー」は思わぬところから犯行が露呈するところがなかなかいい。ラストの印象度も高く、本作品中のベスト。

作者の趣味を十分に生かした設定が面白いのは事実だが、パターン化によるマンネリは避けてほしいと思う。