平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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藤崎翔『神様の裏の顔』(KADOKAWA)

神様の裏の顔

神様の裏の顔

神様のような清廉潔白な教師、坪井誠造が逝去した。その通夜は悲しみに包まれ、誰もが涙した―と思いきや、年齢も職業も多様な参列者たちが彼を思い返すうち、とんでもない犯罪者であった疑惑が持ち上がり……。聖職者か、それとも稀代の犯罪者か――驚愕のラストを誰かと共有したくなる、読後感強烈ミステリ! !(帯より引用)

2014年、第34回横溝正史ミステリ大賞受賞。同年9月、単行本発売。



作者は高校卒業後、東京アナウンス学院在学中にお笑いコンビ「セーフティ番頭」を結成。6年活動後の2010年にコンビ解消。アルバイトをしながら小説を書き続け、初めて書いたミステリの本作でプロデビュー。なお当時の相方は、現在もピン芸人として活動しているとのこと。残念ながらコンビ名は全く知らなかった。

神様のような教師だった坪井誠造の通夜に来た元同僚の体育教師、教え子で坪井の娘の元同級生、同じく元教え子で坪井のアパートに住む女、同じく坪井のアパートに住むお笑い芸人の男、隣に住む主婦。接点らしい接点もない(体育教師が元同級生の教師だったぐらい)人たちだったが、通夜ぶるまいの席で話が進むうちに、それぞれの過去に起きた事件や不幸な出来事に坪井が関わっていたのではないかという疑惑が持ち上がる。清廉潔白な教師の裏の顔は殺人鬼だったのか。喪主である坪井の娘やその妹も含め、話は進んでいく。

生前はよい人に見えていたが、実は……という展開はありきたり。多重視点による小説の展開もよくある話。見知らぬ人たちが集まってわいわいがやがやと進めるのもよくある話。どこかで見たことがあるなあ、という既視感は誰もが抱くだろう。とはいえテンポはよいし、元お笑い芸人らしいユーモアも悪くない。それぞれの描き分けもよくできているし、描き方も柔らかく、読んでいて嫌味に感じるところが無い。まあ逆の見方をすれば薄いという風になるかもしれないが、読後感は悪くない。結末には文句を言う人も多いだろうが、現実味としてはともかく、ミステリとしては悪くない着地点だと思う。新人でこれだけ書ければ十分だろう。受賞そのものには納得できる。ただ選評にもある通り、もう少し話は整理できたと思うが。

問題は、新鮮味がない、オリジナリティに欠けるところか。元お笑い芸人だったとのことで、本作品の構成もアンジャッシュのコントを思わせるところがある。ただそれがストレートに出過ぎている。それと、山場のつくり方が今一つ。コントで言うドカンと笑いが取れるピークを、本作にも入れてほしかった。

この作者ならでは、というものを一つ持ってほしいと思う。キャリアは珍しい方なのだから、もっとその特色を生かしてほしい。