- 作者: 建倉圭介
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1997/08
- メディア: 単行本
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1997年、本作で第17回横溝正史賞佳作受賞。応募時タイトル『いま一度の賭け』。同年8月、刊行。
冒頭でクラッカーとは何かが書かれている。「コンピュータシステムに対し、そのセキュリティという防御網をかいくぐり、犯罪目的で不正アクセスをするもの。ハッカーという言葉は本来寝食を忘れてコンピュータにのめりこみ、非常に素晴らしいプログラミングができる人という意味で、コンピュータ犯罪者を指すものではなかった」とのことだそうだ。
閑職に追い込まれて55歳の定年を迎える田所修平は、かつて自分を開発部門から追い出した奥沢勲常務とその部下だった下村清二たちに復讐するため、退職前に1億5000万円を横取りする計画を建て、プログラムを改ざんし実行する。しかし複数の銀行から引き出せる金が、予定よりも多い。その後の会社の発表で、合計2億8000万円が搾取されたことが明らかになる。警察や銀行の捜査が進む中、下村が飛び降り自殺したというニュースが舞い込む。田所も自ら真相を追い始める。
2010年代の今では陳腐なネタかも知れないが、この作品が出た1997年ならまだまだ通用した題材なのだろう。ただ陳腐な部分はあくまで技術的な分野であり、それらを取り巻く人たちについては普遍的なものである。要はその人間ドラマが面白くなければならない。そういう意味でこの作品を見てみると、今でも十分鑑賞に堪えうる作品だとは思う。ただ主人公が定年を迎えた55歳の冴えないオッサンであるため、動きがややもっさりしているというか。読んでいてもどかしい部分もある。というか、自分だったらそんな疑われる真似をしないで、知らないふりをしているけれどね。娘ぐらいの年齢である女性とのロマンスも裏がありありだし。まあ、オッサンらしいドギマギ感は十分描けていたと思うが(苦笑)。
なんというか、題材も小説も悪くないのだが、今一つ決定打に欠けた作品。田所が動き回るのではなく、もうちょっと初老に近づいた男の悲哀をアピールした方が、よかったんじゃないだろうか。