平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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河合莞爾『デッドマン』(角川書店)

デッドマン

デッドマン

頭のない死体、胴体のない死体……身体の一部が持ち去られた6つの死体が都内で次々と発見される連続猟奇殺人事件が発生。鏑木鉄生率いる個性派揃いの特別捜査班4人が捜査に当たる中、一通の奇妙なメールが届く。差出人は「デッドマン」。彼は6つの死体のパーツを繋ぎ合わされて蘇った死人であると言い、自分たちを殺した犯人を暴くために協力したいというのだが……。(帯より引用)

2012年、第32回横溝正史ミステリ大賞受賞。応募時タイトル『DEAD MAN』。同年9月、改題の上刊行。



6人の身体の一部を切り取り、つなぎ合わせて甦らせるなんて、『バビル2世』のヨミ(私は先にこっちが来る)かよとか、『占星術殺人事件』かよ(小説内でも「アゾート殺人事件」という言葉が出てくる)などと思って読み始めたが、実は骨格のしっかりした警察小説だった。

警視庁刑事部捜査第一課・第四強行犯捜査・殺人犯捜査第十三係で、本事件のヘッドとなるバツ1の中年警部補鏑木、同期で熱血系の正木、鏑木とペアを組んでいるお坊ちゃま育ちで優秀な刑事オタクの姫野、プロファイリングの専門家で神経質かつちょっとネガティブな澤田の4人が中心となって事件に挑む。彼らのやり取りが昔の刑事ドラマ風味なのはちょっと笑えるが、作品によいテンポを与えているのは事実。ただ、バラバラ連続殺人や医療事故といった重いテーマの割に作品が軽く感じられてしまうところがあった。まあこれは痛し痒しといったところか。

一方で「デッドマン」の誕生から動けるようになり、入院患者との交流を経て警察にメールを出すまでの出来事が語られる。読む方は当然「デッドマン」なんて有り得ないと思いながら読み進めるわけだが、意外なところに伏線が仕掛けられているところはちょっと驚いた。

両者の接触から動き出す物語は怒濤の展開。よく読むと都合良すぎる部分はあるのだが、作品に勢いがあるから一気に読めてしまう。リーダビリティは本当に抜群。キャラクター造形も脇役にいたるまでよくできている。鏑木の師匠ともいえる元刑事の中山なんて、いい味出しているよなあ(逆に刑事の悲哀も感じたけれど)。小説の傾向は違うけれど、戸梶圭太のデビューを思い出した。

いわゆるベストには選ばれないが、記憶に残る面白い作品である。