平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ロバート・エイディー編/森英俊訳『これが密室だ!』(新樹社)

これが密室だ!

これが密室だ!

著名なミステリコレクターであるロバート・エイディーと森英俊が、日本の読者のために編んだ密室アンソロジー。全て本邦初訳作品。

収録作は、エドワード・D・ホック「十六号独房の問題」「見えないアクロバットの謎」、ヘイク・タルボット「高台の家」、フランシス・マーテル「裸の壁」、グレンヴィル・ロビンズ「放送された肉体」、モートン・ウォルソン「ガラスの部屋」、E・V・ノックス「トムキンソンの鳥の話」、サミュエル・W・テイラー「罠」、ジョセフ・カミングス「湖の伝説」「悪魔のひじ」、スチュアート・パルマー「ブラスバンドの謎」、ウィル・スコット「消え失せた家」、ニコラス・オールド「見えない凶器」、ヴィンセント・コーニア「メッキの百合」、クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ「死は八時半に訪れる」、マックス・アフォード「謎の毒殺」、C・デイリー・キング「危険なタリスマン」、ジョン・ディクスン・カー「ささやく影」の18作。



人選があまりにもマニアックで、しかも全て密室。日本の本格ミステリマニアなら喜ぶであろうという企画意図が見え見えのアンソロジー。いや、私も喜んで当時新刊で買ったわけですが(苦笑)。有名作品が入っているわけでもないし、密室の分類分けとか歴史とかが載っているわけでもない。ましてや密室の隠れた傑作と言える作品が収録されているわけでもない。だから、この本のタイトルだけはもう少し何とかならなかったのだろうか。まあ、些細なことだが。

それにしても聞いたことのない作者が多い。記憶力大幅減衰中の私でも、さすがにカーやホック、デイリー・キングあたりはわかる。ヘイク・タルボットは『魔の淵』(つまらなかったな……)の作者。E・V・ノックスは、某作品よりたぶん早くあのトリックを使っている「藪をつつく」の作者。ジョセフ・カミングスも読んだ記憶があったのだが、思い出せない……勘違いかもしれない。あとはもうわからない。各作品の冒頭には、作者の紹介や日本における翻訳状況などが書かれているが、それをよんでもピンと来ない。たいした読者とは思っていないけれど、やっぱりマニアックすぎるとは思う。そこがたまらないところなのかもしれないが。

それにしても、作品より冒頭の作者・作品紹介の方が面白いというのはどういうわけ? マニアック度だけでなく、もう少し作品内容でも勝負してほしかった。

ホックは安定レベル。フランシス・マーテル、グレンヴィル・ロビンズ、E・V・ノックスはばかばかしくて笑ってしまった。モートン・ウォルソンはミステリファンのための1編。ジョセフ・カミングスは編者が2人とも絶賛していたが、どこが面白いのかさっぱりわからない。スチュアート・パルマーはどうせならまとめて1冊で読んだ方が面白かったと思う。1作だけでは探偵の魅力が伝わらない例。

キングはタラント氏帰還後の話だから、もうちょっと面白い後日譚があるかと思っていたのに、ただの短編ミステリだったのはかなり残念。

個人的に面白かったのは、サミュエル・W・テイラーかな。本格ミステリではないところが、かえって新鮮だった。それとヴィンセント・コーニア。クイーンが惚れ込むのも何となくわかるし、これは短編集で読んでみたい作家。

巻末に編者2人が薦める密室長編と短編のリストがそれぞれ5作ずつ載っている。ジョセフ・カミングスのバナー上院議員をここまで持ち上げているのを見ると、とりあえず全部訳してくれと言いたくはなる。