平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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紀田順一郎『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)

古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫 (406‐1))

古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫 (406‐1))

「本の探偵――何でも見つけます」という奇妙な広告を掲げた東京神田の古書店「書肆・蔵書一代」主人須藤康平。彼の許に持ち込まれる珍書・奇書探求の依頼は、やがて不可思議な事件へと進展していく……。(粗筋紹介より引用)

昭和戦前の一代稀書、堀井辰三『ワットオの薄暮』が図書館から紛失した事件を扱った「殺意の収集」。

戦前の動物本探求の依頼から、かつての古書界の名物だった老人の行方を捜す「書鬼」。

明治初期の風俗書探求の依頼から、放火事件の謎を解く「無用の人」。

戦後に出版された後発禁となり、裁判にまでなった『女人礼賛』の刊行者を捜してほしいという依頼から、戦後のの失踪事件を追いかける「夜の蔵書家」。

以上、古本屋探偵もの4編、全てを収録。

「殺意の収集」「書鬼」は1982年に三一書房から出版された『幻書辞典』に収録された中編。「殺意の収集」は1983年「別冊文藝春秋」に発表された中編。「夜の蔵書家」は1983年、『われ巷にて殺されん』のタイトルで双葉ノベルスから出版された長編の改題。



大分前に買い、1ヶ月ぐらいかけてようやく読み終わった。なんか、読み続けたいと思わせるものが特になかったからだな。

古本屋やコレクター、それに古書にまつわる部分は面白い。興味のない人から見たら、こんなものになんでお金をかけ、読むかどうかわからないものを必死に収集するんだろうと思われてしまいそうな、古書コレクターの生態が、実に生き生きと、そしてちょっぴり哀しく描かれている。どこの世界でもマニアという存在は、周りの人から見たら奇妙な存在に移るだろうが、古書マニアは特に奇妙な存在としてうつるのではないだろうか。その古書マニアの生態を知るという意味では、楽しい一冊。

ただ、事件の謎を解くという部分においては、少々地味で楽しめなかったというのが本音。肝心の「探偵」部分が、読んでいても乗り切れなかった。何が悪いのかと言われても困るのだが、古書の部分が面白すぎて、それに見合う「事件」を書くことができなかったからじゃないだろうか。ロス・マクドナルド風の、私立探偵小説みたいな雰囲気はあるのだが。

本書は解説にある紀田順一郎瀬戸川猛資との対談も楽しい。結局、古本屋・古書に関わる部分の方が、本を読んでも、解説を読んでも面白い。結局題材に負けてしまっているというのが、正直なところじゃないかな。