平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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馳星周『長恨歌 不夜城完結編』(角川書店)

長恨歌―不夜城完結編

長恨歌―不夜城完結編

武基裕。残留孤児二世として日本の地を踏んだ、生粋の日本人。しかし、それは偽りの経歴。両親はともに中国人。戸籍を改竄し、日本人として日本の地を踏むことができたのだ。かつては普通の企業で働いていたが、リストラ後は新宿の韓豪の下で働いている。そしてまた、公安の麻取、矢島茂雄のスパイとして落ちぶれている。

韓豪と日本の暴力団東明会との話し合い中、謎の二人組が韓豪たちをショットガンで皆殺しにした。近くで見張りをしており、現場を目撃した唯一の人物である武の元に、矢島、東明会、韓豪の部下が事件の謎を追えと迫る。手掛かりのない武は一人の情報屋を矢島に紹介してもらう。歌舞伎町のかつての大物、劉健一だった。

事件の謎を追う武は、打ち合わせに入ったクラブで幼なじみの中国人女性と出会う。経歴を偽っている武は、自分がその幼なじみであることを打ち明けることができない。

誰が事件の黒幕なのか。振り回される武の前に降りかかる様々なトラブル。武は安らぎを求めることが出きるのか。

野性時代」2004年2月号〜10月号連載。『不夜城』『鎮魂歌』に続く不夜城シリーズ完結編。



不夜城』『鎮魂歌』と立て続けに出版した頃の馳星周の勢いとパワーはものすごいものがあったと思う。ただ、その後となるとどうだろうか。話題に上がったのはせいぜい大藪賞を受賞した『漂流街』や直木賞の候補作ぐらい。いやな言い方をすれば、馳は処女作をピークとしている。もちろん作品の完成度でいえば『不夜城』を越えている作品はあるだろうが、衝撃度という点では及ばない作品ばかりである。馳はこのまま転がり落ちるのか。

長恨歌』は「不夜城完結編」のサブタイトルがあるとおり、『不夜城』の主人公劉健一などが登場する。主人公は経歴を偽った偽日本人武基裕。様々な人や組織から駒として扱われながらも、必死にあがく姿は読者の共感を呼ぶ。時が過ぎ、新たなる新宿の姿が描かれている。普通に読めば、面白いジャパニーズ・ノワールだと思うだろう。

だが、『不夜城』『鎮魂歌』をすでに読んでしまったものから見たら、やはりこれは『不夜城』の二番煎じでしかない。二番煎じという言い方が悪ければ、焼き直しだ。時が過ぎようとも、登場人物が変わろうとも、やっていることは全然変わらない。景色が変わろうと、全体を流れるトーンは一緒のまま。完結編とあるからには、やはり何か違うものを見せてほしかった。

馳星周はどこへ行くのか。というより、行く場所があるのか。今のままでは、『不夜城』の作家で終わってしまう。数多くのハードボイルド・冒険小説作家は、デビュー作よりインパクトのある作品を書き続け、巨匠という地位を築いてきた。しかし、一部の作家はデビュー作を越えることができず、そのまま並の作家へと堕ちていった。才能のある作家だと思うので、馳には今後新たなる代表作を書いてほしい。