平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高野和明『ジェノサイド』(角川書店)

ジェノサイド

ジェノサイド

急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬科学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた施設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療薬を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にある今後のジャングル地帯に潜入するが……。

父の遺志を継ぐ大学院生と、一人息子のために戦い続ける傭兵。交わるはずのない二人の人生が交錯するとき、驚愕の事実が明らかになる。それは、アメリカの情報機関が察知した、人類絶滅の危機――。(帯より引用)

野性時代』2010年4月号〜2011年4月号連載。2011年3月刊行。



新刊だと2007年の『6時間後に君は死ぬ』以来? 久しぶりに見た名前なので、思わず買ってしまいました。この作者だからはずれはないだろうと思っていたが、ここまで面白いとは思わなかった。590ページの大作ながら一気に読み進めてしまうストーリー。手に汗握る先の読めない展開、わかりやすく咀嚼されているため思わず読み込んでしまう学術的なストーリーの補強部分、極限に追い込まれた人間たちのドラマ、大きな不安とそれ以上に輝かしい未来を感じさせるラストなど、エンタテインメントとして超一級品。しかもこれが書下ろしではなくて雑誌連載だというところにも非常に驚いた。作者は事前に詳細な計画図を書いていたのだろう。元々文献を自らの舞台にわかりやすく取り込む腕は『13階段』でも見せていたが、謝辞や参考文献に並べられたこれだけの数の内容を違和感なく小説世界に取り込み、読者にわかりやすく提供できる腕は本当に感心する。1年間も連載しているのに、ブレというものが全く感じられない。

とはいえ、ちょっとなあという部分が無きにしも非ず。うーん、困った。これ、どこまで書いていいのだろう。なぜここまで綱渡りな計画を立てなければならないのかというところには首をひねるし、誰かが計画の参与を断っていたらどうしていたのだろうという疑問もある。また古賀研人には李正勲がいなかったらどうなっていただろうと思わせるほどだったのだが……。まあ、人の心理を含めてそこまで読み込んでいたのだったら、恐れ入るしかないのだが。とはいえ、流れ弾が当たる可能性もあったわけだし……。そんなところまでつつくのは野暮か。ただ、ミックの取り扱いは可哀想だと思う。

この作品、主要登場人物は男ばかりなのだが、実は女性の存在があってからこそということに気付かされる。研人の友人である土井の発言「強いオスが選ばれるのは生物学的な宿命」という言葉が物語の全体を支配している。多分これこそが世界の真理ということなのだろう。

ためらうことなく傑作と言える作品だろうし、おススメ。作者の代表作になるだろう。今年の話題作という評判に偽りはない。

犯罪の世界を漂う

無期懲役判決リスト 2011年度」に1件追加。「求刑死刑・判決無期懲役」に1件追加。
舞鶴女子高校生殺人事件で中勝美被告に無期懲役判決(求刑死刑)。うーん、正直言って無罪か求刑通り死刑か、どちらかの判決しかないと思っていたので、無期懲役判決というのはかなり意外だった。有罪か無罪かは証拠を吟味しているわけではないのでわからないが、有罪だったら間違いなく求刑通り判決だと思っていた。少なくとも過去に2名殺害する事件を引き起こし、今回の事件でも被害者側に過失がない状態で、殺人再犯の被告に無期懲役判決が出るとは思っていなかった。なんか、玉虫色の被告に対し命を奪い取る判決は出しづらいから無期懲役判決を出しておこうという防御線を張った判決にしか見えない。これが裁判員裁判だったら、有罪にしろ無罪にしろ形的にはスッキリした判決が出でいただろう。もし裁判員裁判だったら、鹿児島地裁で求刑死刑の被告に無罪判決が出たケースを取り上げ、本事件ではそれ以上に証拠能力が弱い間接証拠で有罪判決を出すのかと詰め寄っていただろう。
私にはこの被告が無罪か有罪かはわからない。まあ、写真から見た印象と状況証拠、前科を考えると、クロであるという印象が強いんだけれどね。じゃあ現時点での証拠で有罪判決を出せるかどうかといわれると微妙。実際に法廷にいたら、もう少し違った印象を持つかもしれない。そうやって考えると、マスコミって怖いね。中被告が犯人だと思っている人がほとんどだと思う。