平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 英(ガーディアン)、米(ウォール・ストリート・ジャーナル)ほか各媒体で年間ベスト・ミステリに選出。主要書評誌で軒並み絶賛され、異例のスピードで100マン部を突破したベストセラーがついに登場。
 引退者用の高級施設、クーパーズ・チェイス。ここでは新たな開発を進めようとする経営者陣に住人達が反発していた。施設には、元警官の入居者が持ち込んだ捜査ファイルをもとに未解決事件の調査を趣味とする老人グループがあった。その名は〈木曜殺人クラブ〉。経歴不詳の謎めいたエリザベスを筆頭に一癖も二癖もあるメンバーたちは、施設の経営者の一人が何者かに殺されたのをきっかけに、事件の真相究明に乗り出すが――新人離れした圧倒的完成度でイギリスで激賞を浴び、大ヒットとなった傑作謎解きミステリ。(粗筋紹介より引用)
 2020年、発表。全英図書賞の年間最優秀著者賞を受賞。2021年9月、邦訳刊行。

 

 作者はBBCのバラエティー番組のプレゼンター、コメディアンとして活躍。本書はデビュー作。
 高級高齢者施設で四人のメンバーが、創始者である元女性警部で元メンバーのペニーが持ち込んだ未解決事件ファイルを読んであれこれ推理している。創始者で経歴不詳のエリザベス、元看護士のジョイス、元有名労働運動家のロン、元精神科医のイブラヒムがメンバー。施設の共同経営者であるトニーが殺害されたため、クラブに時々来ていた女性巡査のドナを通して捜査の情報を知り、事件の解決に乗り出す。
 タイトルからして、クリスティーの『火曜クラブ』(創元だと『ミス・マープルと十三の謎』)をモチーフとしていることがわかる。それにしても、登場人物が多い。連続殺人事件に加え、過去の事件なども重なるものだから、事件の全体像を把握するのが少々面倒。そのくせ、ときどき脱線するのだから、始末に負えない。英国本格推理小説特有のユーモアというやつが、苦手。三人称視点なのに所々でジョイスの視点が入ってくるのも読みにくい。
 序盤はそれでも面白く読めたんだけど、だんだんと読みづらくなり、中身を把握するのに苦労した。一応謎解きミステリと謳われているけれど、別にトリックがあるわけでもなく(今時あるほうが珍しいが)、丹念に事件を追っていけば解けるもの。それにしても、長すぎないか。1/4は削れそうな気がする。四人の会話を中心とした作品にすべきで、事件のほうはもう少しシンプルでよかったと思う。
 これがベストセラーなのか。どこがいいのだろうと思う次第。まあ、作品の世界観が面白いのだろう。続編にはあまり期待できないが。

若木未生『ハイスクール・オーラバスター外伝集 アンダーワールド・クロニクル』(トクマノベルズ)

 超大河シリーズ、完結記念! 同人誌等に掲載された外伝短篇を一挙お蔵だし&書下し短篇もあり! また巻末には著者ロング・インタビューも収録。オーラバ・ファン、必携の書!(粗筋紹介より引用)
 2021年10月刊行。

 

 収録作品は以下。
 「RED RED ROSES」(ファンクラブ用に書かれた「K」(1995年)「noel」(2000年)「ノイエ・ムジーク」(2000年)をまとめ、2008年12月発行)
 「夜間飛行 vol de nuit」(同人誌「super love」(1997年)「super love ex」(1998年)「super love 2」(1998年)「highschool auraduster 2007」(2007年)を再録し、2010年12月発行)
 「fragments 2011」(無料配布ペーパー「the mirors」(2010年)「another stigma」(2011年)に新作「another stigma2」(2011年)を収録し、2011年8月発行)
 「The Prophets」(2012年8月発行)
 「ありふれた晩餐」(無料配布ペーパー「newest day」(2011年)「ありふれた晩餐(not the Last Supper)(2013年)に新作「半秒後の仮想(as a fiction)」(2014年)「Credo」(2014年)を収録し、2014年8月発行)
 「metro」(書下ろし「アンダーグラウンド」「胡蝶」「ビハインド」を収録し、2015年8月発行)
 「魔法を信じるかい?」(2015年12月発行)
 「Siesta」(2016年8月発行)
 「pieces of 30th」(新作「銀貨と珈琲」(2017年)『ハイスクール・オーラバスター完全版』特典ポストカードの再録「ストライド」(2011年)「サイレントアイズ」(2012年)無料配布ペーパー「Over the Rainbow」(2017年)2017年12月発行)
 未収録SS(CD「REUNION-0」特典ポストカード「NO Friends, NO LIFE」(2012年8月)「18's secret skyscape」(2012年8月)『白月の挽歌』特典ペーパー「王国」(2015年9月)『千夜一夜の魔術師』特典ペーパー「半月」(2018年10月))
 「Before The Judgement」(『天の聖痕』『ファウスト解体』応募者全員サービスの小冊子。書下ろし「桜の森の満開の」「天動説の終わり、そして」を収録し、2012年6月発行)
 「スリー・ストーリーズ」(本書用書下ろし)
 さらに「《ハイスクール・オーラバスター》完結記念 若木未生インタビュー」「あとがき」も収録。

 同人誌はいくつか買ったなあ、なんて読みながら思ったり。さすがにペーパー関係は初めて読んだ。
 個人的には亮介と亜衣がイチャイチャして、諒が部屋にいられない、みたいな展開のSSを読んでみたかったな……。あの二人が、オーラバ世界の平和の象徴なんだよ、絶対。
 掌編ばかりではあるが、ストーリーの裏側というか、登場人物の内面を描いてきたもの。オーラバファンなら必読。

若木未生『ハイスクール・オーラバスター・リファインド 最果てに訣す the world』(トクマノベルズ)

 忍の肖像画を描きはじめることができず、クロッキーばかり重ねる亮介。全てを拒み妖の者を狩り続ける諒。忍の選択に従う覚悟を決めた冴子。冷静な指揮官であろうとする十九郎。崩れそうな仲間を気づかう希沙良。零れ落ちる神の命を、人間の掌でとどめることなど叶うべくもなく、斎伽忍をこの世界に繋ぎ止める方法はもうないのか……。ついに雷将勝呂との戦いの火蓋が切られる。《ハイスクール・オーラバスター》シリーズここに堂々完結!(粗筋紹介より引用)
 2021年10月、書下ろし刊行。

 

 1989年、第一作「天使はうまく踊れない」刊行から32年。ついに、ついに、ついにオーラバが完結。イラストを変え、レーベルを変え、中断を繰り返し、そしてここまで書き続けられたオーラバが、とうとう終わった。なんとなくこういう終わり方だろうなあ、とみんなが予想したような終わり方だったけれど、それを待ち望んでいたのも事実。感想云々はどうでもよく、ただ完結したことを素直に祝いたい。お疲れさまでした。

紫金陳『悪童たち』上下(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 優等生の中学二年生、朱朝陽(ジュー・チャオヤン)のもとに、孤児院から脱走してきた昔馴染みの少年丁浩(ディン・ハオ)とその〝妹分″の普普(プープー)が訪ねてくる。行く当てのない二人をかくまうことになり、当初は怯えていた朝陽だったが、しだいに心を開いていく。山に遊びに行ったあと、カメラで撮影した動画を見返していたとき、彼らはそこに信じがたい光景が映り込んでいたことに気づく。人が崖から突き落とされる場面が……衝撃の展開に息をのむ華文サスペンス(上巻粗筋紹介より引用)
 それは完全犯罪のはずだった――妻の実家の財産を狙う張東昇(ジャン・ドンション)は、登山に連れ出した義父母を事故に見せかけて殺すことに成功する。だがその光景を偶然、朱朝陽(ジュー・チャオヤン)たちのカメラがとらえていた。彼らはある事情から、自分たちの将来のために張東昇を脅迫して大金を得ようと画策するが……。殺人犯と子供たちの虚々実々の駆け引きの果てに待ち受ける、読む者の胸を抉る結末とは? 中国で社会現象を巻き起こしたドラマ化原作小説。(下巻粗筋紹介より引用)
 2014年、発表。2021年7月、邦訳文庫化。

 作者は中国の人気作家。本作に登場する元捜査官の大学教授、厳良(イエン・リアン)を主人公とした〈推理之王〉シリーズ三部作の第二作目。中国で配信直後に10億回突破したサスペンス・ドラマ『バッド・キッズ 隠秘之罪』の原作。
 シリーズ2作目とあるが、厳良は張東昇の大学時代の恩師であるにもかかわらず、事件の解説役程度でしかない。1作目はどんな活躍をしたのだろう。
 夏休みのある日、成績は学校でもトップだが、両親が離婚し、母に引き取られて貧乏生活である中学二年生の朱朝陽のもとに、孤児院から脱走してきた小学生時代の親友である丁浩と、妹分で2歳下の普普(夏月普)が訪れ、仲良くなる。3人は遊びに行った山で、張東昇が義父母を事故に見せかけて殺害するところをカメラで撮影。丁浩と普普が孤児院に戻らなくて済むように、3人は張東昇から大金を強請ろうとする。一方、張東昇は何とかして証拠のカメラを奪い取ろうとする。
 子供たちが殺人者と対峙してやりこめるだけの作品かと思ったら大間違い。読者が予想もしていなかった展開が次から次へと待ち受ける。起きる事件の内容だけを見たらとんでもなくダークな作品で、ノワールと言っても間違いないのだが、朱朝陽と丁浩と普普のやり取りがやっぱり子供だなと思える部分もあり、救いにもなっている。いや、読み終わったらそんな単純な感想にはならない。とにかく驚いたとしか言いようがない。ノワールなのに何となくスカッとした気分になるのも不思議なのだが、それは登場人物に感情移入したからかもしれない。子供たち3人と張東昇との丁々発止なやり取りが、子供が悪い大人を懲らしめているように見えているところがあるからかもしれない。
 よくよく読むと、警察が手を抜きすぎ、証言を簡単に信用しすぎなのだが、そんなことを感じさせないぐらいにストーリーのテンポがいいし、人物造形や心理描写が的確だし、展開が面白い。複数の事件の絡ませ方もうまいし、収束に向かうまでのスピード感には感心。中国社会らしいやり取りもあるせいか、途中のいじめシーンや警察の手抜きについてもそんなものだろうと思ってしまうのはちょっと偏見かもしれないが、納得してしまった。
 それと、登場人物のすべてにフリガナがついているところに感心。これは非常に読みやすかった。そんな細かい配慮も、作品を面白くさせた理由の一つである。
 張東昇という人物は、もしかしたら朱朝陽が成長したらなっていたかもしれない人物像の一つではないか。普普は結婚したら、朱朝陽の父親である朱永平(ジョー・ヨンピン)の二人目の妻である王瑶(ワン・ヤオ)のようになったのかもしれない。そんな中国社会の歪みが生み出した、登場人物たちだったのだろう。
 華文ミステリの傑作。ここまで来たら、シリーズの他の作品も読んでみたい。

犯罪の世界を漂う

https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/climb.html
「求刑無期懲役、判決有期懲役 2021年度」に1件追加。
神戸の事件はそれほど意外な判決ではなかったが(許せない判決だけど)、旧大口病院の事件の方にちょっと影響するんじゃないかと思った次第。