平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笠井潔『熾天使の夏』(創元推理文庫)

熾天使の夏 (創元推理文庫)

熾天使の夏 (創元推理文庫)

 

   学生運動に伴うリンチ事件の首謀者として三年間の刑務所生活を終え、男はひっそりと暮らしていた。ある日彼は、自分が尾行されていることに気づく。待ち伏せてみるとそれは昔の仲間であったのだが……。完璧な自殺それが問題だ――頭蓋の奥で響く小さな呟きを意識しながら、植民地都市へ向かい、飛翔を試みた、かつて革命の時を生きた男は何を思い、何を求めるのか? 矢吹駆の罪と罰を書いた、シリーズ第ゼロ作にして、笠井潔の原点! 幻の処女長編テロリズム小説。(粗筋紹介より引用)
 1999年7月、講談社より単行本刊行。2000年12月、講談社文庫化。2008年9月、創元推理文庫化。

 

 矢吹駆シリーズ第ゼロ作。1979年に執筆した『夏の凶器』が元になっている。
 はっきり言うが、矢吹駆シリーズを面白いと思ったことはない。そんな私がなぜこの本を買ったのか、まったく記憶にない。一応読んでみたが、はっきり言ってつまらない。肌に合わない。そもそも当時の学生運動というのが、連合赤軍などのせいだと思うが、どうしても独りよがりで幼稚なものにしか見えてこない点でまず偏見を持っているのだと思う。
 そもそもミステリですらないし、だから何、というのが正直なところ。矢吹の思考に、全くついていけない。それだけ。

福井晴敏『亡国のイージス』上下(講談社文庫)

亡国のイージス 上 (講談社文庫)

亡国のイージス 上 (講談社文庫)

 
亡国のイージス 下(講談社文庫)

亡国のイージス 下(講談社文庫)

 

  在日米軍基地で発生した未曾有の惨事。最新のシステム護衛艦いそかぜ》は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った《楯(イージス)》が、日本にもたらす恐怖とは。日本推理作家協会賞日本冒険小説協会大賞大藪春彦賞をトリプル受賞した長編海洋冒険小説の傑作。(上巻粗筋紹介より引用)
 「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏内に設定されている。その弾頭は通常に非ず」 ついに始まった戦後日本最大の悪夢。戦争を忘れた国家がなす術もなく立ちつくす時、運命の男たちが立ち上がる。自らの誇りと信念を守るために――。すべての日本人に覚醒を促す魂の航路、圧倒的クライマックスへ! (下巻粗筋紹介より引用)
 1999年8月、講談社より書き下ろし刊行。2000年、日本推理作家協会賞日本冒険小説協会大賞、第2回大藪春彦賞を受賞。2002年7月、講談社文庫化。

 

 乱歩賞受賞作『Twelve Y. O.』は周囲に聞くと賛否両論だったが、それは作品のテーマに比べてページ数があまりにも少なすぎたからに過ぎない。私はそう主張していたけれど、本作で一気にその7才能を開花させ、ベストセラー作家になった。こうなると、逆に読む気が失せるんだよなあ(苦笑)。とはいえいつまでも読まないと変だな、と思って時間があるときに手に取ってみた。
 こうして読んでみると、どことなく漫画チック。国防問題とかは納得するところがあるし、北朝鮮も含めて背景はうまく書けているのだが、登場人物がかなり戯画的。なんか単純だな、と思う人が多いのはどうなんだろう。若者ってそんなものかな。それ以上にストーリーが本当にアクション漫画そのもの。下巻あたりからの如月と仙石の動きは、普通に考えれば無理でしょ、と言いたい展開。まあ、楽しく読めたけれどね。楽しく読めたのだけれども、せっかくのテーマが急に軽くなっちゃったな、と読み終わってから感じてしまい、ちょっと残念だった。まあ、重いままの話が進むようじゃエンターテイメントとしては失格だから、ああいう冒険活劇の世界に走るしかなかったんだろうけれど。
 面白いよ、面白い。長いけれど、面白い。そこは認めるけれど、何だかなあ、もっと悲劇的な部分があってもいいのかな、なんて思ってしまう。それともエンターテイメントは、こうあるべきなのかな。

吉来駿作『キタイ』(幻冬舎)

キタイ

キタイ

 

  8人の高校生は、死んだ仲間・葛西を甦らせようと死者復活の儀式・キタイを行う。それから18年、復活を遂げた葛西はキタイの秘密を知る仲間を殺し、永遠の命を得ようとするが……。死者による、時を超えた惨劇が始まる。(「TRC MARC」の商品解説より引用)
 2005年、第6回ホラーサスペンス大賞受賞。加筆修正のうえ、2006年1月、幻冬舎より単行本刊行。

 

 第一章は、18歳の姿のままの葛西が、かつての仲間を殺し続け、女は犯す。第二章は18年前、登場人物の高校時代の話。第三章は、第一章で残った者たちと葛西が対峙する。
 綾辻行人が選評でスティーブン・キングの『IT』や『ペット・セマタリー』を先行作品として挙げていたが、どっちも読んでいない身としてはさっぱりわからない。死者が甦る方法としてはなるほど、ありだなとは思って読んでいたが、対象によって異なる部分があったりしてご都合主義だなと思わせる。そもそも、肝心の中身が読みにくくて辛い。第一章は唐突に視点が変わるし、登場人物の描写が足りなくてどんな人物だかよくわからないまま話は進むしといった次第。そして第二章はなんだか痛々しい高校生がたどたどしく破局に向かっている印象しかない。第三章になってようやくホラーらしさが出てきて、物語もテンポよく進む。登場人物をもっと減らし、過去パートをもっと整理すれば、より怖い作品ができたんじゃないか?
 改善点がいっぱいあって、何だかもったいない。葛西のあくどさをもっと突き詰めて書いた方がよかったと思う。なんかアイディアを整理しきれないまま、勢いだけで書いたような作品だった。

米澤穂信『巴里マカロンの謎』(創元推理文庫)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 文庫
 

  「わたしたちはこれから、新しくオープンしたお店、パティスリー・コギ・アネックス・ルリコに行って新作マカロンを食べます」その店のティー&マカロンセットで注文できるマカロンは三種類。しかし小佐内さんの皿には、あるはずのない四つめのマカロンが乗っていた。誰がなぜ四つめのマカロンを置いたのか。それ以前に、四種の中で増えたマカロンはどれか。「ぼくが思うに、これは観察力が鍵になる」小鳩君は早速思考を巡らし始める……。心穏やかで無害で易きに流れる、誰にも迷惑をかけない小市民になるべく互恵関係を結んだあの二人が帰ってきました! お待ちかねシリーズ十一年ぶりの新刊、四編収録の作品集登場。(粗筋紹介より引用)
 2016~2019年に『ミステリーズ!』に掲載された「巴里マカロンの謎」「紐育チーズケーキの謎」「伯林あげぱんの謎」に書き下ろし「花府シュークリームの謎」を収録。2020年1月、創元推理文庫より刊行。

 

 『秋季限定栗きんとん事件』依頼11年ぶりの小市民シリーズ最新作。とはいえ、今回の四作品はいずれも小鳩君と小佐内さんが高校一年生であり、シリーズ番外編と言える。
 二人が抱える重いテーマが出てこない分、ストレートに二人のシリーズを楽しむことはできる。謎自体はいずれも小粒であるし、推理にもそれほど飛躍があるわけではなく、シリーズファンだったら楽しめればいいでしょう、みたいな雰囲気は否めない。もちろん、単独で読んでもわかるような内容にはなっているが。
 とりあえず、出たことを素直に喜べばいいんじゃないかな、これは。作者がシリーズの感覚を取り戻そうとしている作品集でしょう。個人的には、オチがほとんど見えていても笑ってしまった「伯林あげぱんの謎」が好き。