北町奉行所に勤め、若き日より『八丁堀の鷹』と称される同心戸田惣左衛門と息子清之介が出合う謎の数々。神田八軒町の長屋で絞殺されていたお貞。化粧の最中の凶行で、鍋には豆腐が煮えていた。長屋の者は皆花見に出かけており……「花狂い」。七夕の夜、吉原で用心棒を頼まれた惣左衛門の目の前で、見世の主が殺害された。衝立と惣左衛門の見張りによって密室状態だったはずなのだが……「願い笹」。惣左衛門と清之介親子を主人公に描く、滋味溢れる時代ミステリ連作集。移りゆく江戸末期の混乱を丁寧に活写した、第27回鮎川哲也賞最終候補作。(粗筋紹介より引用)
2018年10月、刊行。
第27回鮎川哲也賞からは、受賞作『屍人荘の殺人』、優秀賞『だから殺せなかった』も刊行されている。近年まれにみるレベルの高い戦いだったようだ。とはいえ、三冊とも読んでみると、やはり受賞作が一枚も二枚も上手だなという印象を受けた。選評を読んだ時から本作には期待していたのだが、やはり受賞するには今一つだった残念なところがある。
帯にもある通り、下手人探し、密室の謎、不在証明崩し、隠された動機の4つの謎が解き明かされる連作本格ミステリ短編集。江戸時代ということもあってか、謎自体はやや弱い気もするが、それでも十分楽しむことができた。背景や人物の描写も悪くないし、それ以上に雰囲気が心地よい。戸田惣左衛門が『八丁堀の鷹』と言われるような怖さ、鋭さが見られなかったのはとても残念ではあったものの、一つ一つの短編自体は面白かった。
ところが問題は、これが連作短編集なところ。最初の短編「花狂い」で清之介は十一歳。次の「願い笹」はすぐ後の話だと思われるが、その次の「恋牡丹」は惣左衛門が隠居し、清之介が北町奉行所に勤めている。最後の「雨上り」は江戸幕府が倒れた時代で、清之介は25歳。1年前に惣左衛門の後輩となる同心菊池の娘・加絵と結婚している。せっかく一つ一つの短編がゆったりとした心地よい感じの作品なのに、時の流れがあまりにも早すぎ。多分時代の流れの中の家族の姿を描きたかったのだろうが、本作品集に限って言えば余計なことだった。「花狂い」のころの惣左衛門と清之介の年齢かつ関係のまま、ほかの作品を読んでみたい。そうすることで、彼らの姿がより深く描かれることになり、共感も増しただろう。
ジャンルとしては捕物帖。だったらもう少し同じ時代の作品を読んでみたい。本作品の内容だったら、それも可能だっただろう。本作品が受賞できなかった大きな理由は、絶対そこ。一つ一つの短編のつながりがあるようで断絶している結果になっているのが、非常に残念だった。次作があるのならば、その点を考えてほしい。そもそも捕物帖って、年齢重ねないところが売りなんだからさあ(勝手な決めつけ)。