平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ボストン・テラン『その犬の歩むところ』(文春文庫)

 ギヴ。それがその犬の名だ。彼は檻を食い破り、傷だらけで、たったひとり山道を歩いていた。彼はどこから来たのか。何を見てきたのか……。この世界の罪と悲しみに立ち向かった男たち女たちと、そこに静かに寄り添っていた気高い犬の物語。『音もなく少女は』『神は銃弾』の名匠が犬への愛をこめて描く唯一無二の長編小説。(粗筋紹介より引用)
 2009年、発表。2017年6月、邦訳刊行。

 

 ボストン・テランの作品を読むのは初めて。作者は覆面作家とのことで、性別や年齢すら明らかにしていない。
 主人公はカリフォルニアのセント・ピーターズ・モーテルで生まれた犬のギヴ(GIV)。飼い主はモーテルの経営者で、ハンガリー移民のアンナ・ペレナ。夫は元パイロットで、アンナの運転中の事故で亡くなった。ミュージシャン志望の兄弟の兄、ジェムはギヴを盗んで連れていってしまう。そこからギヴの苦難の道は始まった。いくつかの事件を経て巡り合った、元アメリ海兵隊員でイラクからの帰還兵、ディーン・ヒコックは虐待されて逃げ出したものの死にかけていたギヴを拾い、そしてギヴを飼い主に返そうとギヴの辿ってきた道を後戻りしてゆく。
 ギヴという犬が気高く勇敢で、そして心優しい。そしてギヴを取り巻く人々がまた色々な傷を負っており、ギヴに対しても様々な感情をぶつける。そしてギヴはその気高い心で、周囲の人を癒していくのだ。時には大きく傷つきながら。いやあ、反則だよとしか言いようがない。こんな犬が主人公なら、心を揺さぶられるしかないじゃないか。最後の救出劇なんて、あざとくても感動するしかない。
 ちょいと読みづらい言い回しはあるものの、それさえ慣れてしまえば短めということもあってすいすい読めてしまう。素直に感動に浸りましょう。