平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐木隆三『組長狙撃 海燕ジョーの奇跡』(小学館文庫)

組織に着せられた汚名をはらすため、沖縄の暴力団連合のドンを射殺した混血児・南風ジョー。島から島へと逃亡を繰り返し、父のいるマニラにたどり着いたジョーは、麻薬組織の一員となり、恋人も日本からやってきて、つかの間の幸せを手に入れる。しかし連合の手が伸び、日本に舞い戻ったジョーの行く手に待ち受けるものは……。

海燕のようにすばしこく、大胆なジョーの逃避行と、緊張感あふれる銃撃シーンをリアルに描いたクライムノベルの名作ここに復活。

佐木隆三「隣りの殺人者」シリーズ完結の第5弾。(粗筋紹介より引用)

1979年、季刊『小説新潮別冊』に連載。1980年2月、新潮社より『海燕ジョーの奇跡』のタイトルで単行本刊行。1983年9月、新潮文庫化。2000年8月、小学館文庫より現タイトルで刊行。



個人的には、時任三郎主演で1984年に公開された映画の方が有名じゃないかと思っている作品。当時の沖縄の暴力団って、ここまで無法地帯だったんだろうかと思わせるぐらいなのだが、文庫版あとがきにある通りこの作品にはモデルが存在している。『殺人百科I』の第十三話「褐色の銃弾」に書かれた狙撃事件は実名で出てくる。本作品では「琉球連合」のコザ派、那覇派の理事長をどちらもジョーが射殺してしまうのがこの作品だが、実際には狙撃犯は別々。ジョーのモデルとされている人物は、理事長を射殺した後に警察に自首している。

本作品では、海燕のように逃避行を続けるジョーの行動を「奇跡」と呼んでいる。確かに組織を相手にしてのジョーの活躍は、奇跡と呼ぶにふさわしいだろう。この辺は小説ならではと思わせるが、暴力団ならではのシーンばかりなのにスカッとしてしまうのは、このジョーの爽やかさならではだろう。射殺犯を爽やかと表現するのはどうも違和感があるのだが、実際にそう感じるのだから仕方がない。とはいえ、組織も個人も自分勝手だなあとしか思えないのも事実だが。

シリーズに合わせるため、漢字四文字に改題しているが、やっぱりこれは元の題名の方がしっくりくる。