平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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マーガレット・ミラー『眼の壁』(小学館文庫)

眼の壁 (小学館文庫)

眼の壁 (小学館文庫)

「私をたくさんの眼の壁が取り囲んでいる。私を憎み、私が死ぬのを待っている人たちの眼が…!」

交通事故で視力を失い、ボーイフレンドとの婚約を自ら一方的に解消しながら、なぜか屋敷から彼を離さない富豪の娘ケルジー。眼の壁は彼女の心の傷が生み出した幻覚か? それとも本当に誰かが彼女の命を狙っているのか? バラバラな家族の絆が彼女のモルヒネ服用事件でにわかに、見えない緊張の糸でからめ取られ始めた。そしてついに不可解な死が…。江戸川乱歩の紹介以来、その名のみ高く、長いことその刊行が待たれていたサイコサスペンスの女王M・ミラーの長編傑作、本邦初訳なる! 巻末に作者の作品全リストを掲載した、ファン待望の一冊!(粗筋紹介より引用)

1943年発表。ミラーの長編四作目。1998年、本邦初訳。



江戸川乱歩の評論で取り上げられていたし、他の作品は出ていたことから、とっくの昔に訳されていたと思っていた一冊。小学館文庫から出たときは、これが初訳だとは夢にも思わなかった。サイコサスペンスは苦手だが、読んでみない手はない。

とはいえ、中盤からの展開は今一つ納得できない。ケルジーを中心に不気味な雰囲気が持たれていたのに、ケルジーの自殺未遂以降はサンズ警部による捜査が途中で織り込まれるようになり、その後の殺人事件も含め、なんだか散漫な印象を与える結果となってしまった。最後にミステリ的な仕掛けを持ってきたところは、サスペンス作品としてはかえってマイナスに働いたと思える。

うーん、これではまだミラーの本領発揮とは言えない。まだまだ荒削りなところが残っているというか、パズラーの残像を消し切れていないというところか。訳されていなかったのも、なんとなくわかったような気がした。