平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伊吹隼人『「トキワ荘」無頼派 漫画家・森安なおや伝』(社会評論社)

「トキワ荘」無頼派―漫画家・森安なおや伝 併載『赤い自転車』(森安なおや作)

「トキワ荘」無頼派―漫画家・森安なおや伝 併載『赤い自転車』(森安なおや作)

のらくろ」作者の田河水泡に師事。寺田ヒロオ藤子不二雄A、藤子・F・不二雄赤塚不二夫石ノ森章太郎たちとの「トキワ荘」での青春。時代とその個性ゆえ導いた挫折……。「廃業」後の40年、孤独死に至るまでの生涯を追ったノンフィクション。終生描き続けた、「孤高のまんが道」。代表作「赤い自転車」127頁・完全収録!(帯より引用)



藤子不二雄A『まんが道』に出てくるコメディ役として有名な人物だが、貸本漫画への執筆が中心であるため、どのような人物だったのか、どのような漫画だったのかを知る人はほとんどいなかったと思われる。そういう意味では初めてこうして一冊にまとめられたことは非常にうれしい。昭和20年代、30年代では彼よりもっともっと売れていた漫画家が埋もれている現状を考えると、こうして評伝が一冊にまとめられたことは幸せなのだろう。とはいえ、こうした挫折の人生が書かれていることは、本人が天国から苦笑いしているのかもしれない。

内容そのものは『まんが道』『トキワ荘青春日記』に書かれているエピソードが多い。本人が亡くなっている以上、漫画家時代の本人を知るための参考図書としては、この2冊が最も適切だからである。そのため、そちらの二冊を熟読している人から見たら、退屈と思う部分があるだろう。この本の面白い(というと本人には申し訳ないが)のは、やはり挫折した部分の人生である。漫画を愛しながらも、思うように描けない苦悩が浮かんでくる。

本書には代表作である「赤い自転車」が収録されている。こうして読むと、絵柄も内容も古い。とはいえ、ストーリーそのものは昭和30年代の少女漫画なら割と当たり前の作品だったのだろう。横山光輝の初期少女漫画作品(『母さんふたり』とか)を読むとそう思える。ただ絵柄は当時から見ても古いと思われたのではないか。今読むのは非常につらい。復刻されないのも仕方がないところだろう。もし本人にトラブルがなかったとして、漫画家を続けようと思っていても、出版社からは古いと切られていたのではないだろうか。

それにしても、いまだ「トキワ荘」がらみの本が出てくるところに驚嘆する。もちろん読みたいと思う私のような読者が多いからだろうが、伝説だけが先走ってしまう前にこうして一冊にまとめられることはとても嬉しい。