平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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逢坂剛『兇弾』(文藝春秋)

兇弾

兇弾

悪徳刑事ハゲタカこと禿富鷹秋が遺した神宮署の裏帳簿のコピー。これが表に出ては、警察官僚全体をも揺るがす大事件となる。ノンキャリアながらも出世した警察庁長官官房特別監察官の松国輝彦警視正警察庁次長浪川憲正警視監に公表するよう迫るが、握りつぶされた。一方、ハゲタカの死に関わった神宮署生活安全捜査班の悪徳警部・岩動寿満子は、ハゲタカの動きで壊滅寸前まで陥りつつも、復活し始めた南米犯罪組織・マスダ日本支部と手をつなぐ暴力団伊納総業幹部の笠原龍太を操り、ハゲタカと関係の深い渋六興業の熊代彰三会長を殺害する。すでに引退同然の人物を殺害した理由は。そしてハゲタカからコピーを手渡されていた神宮署生活安全捜査班の御子柴繁警部補に、様々な接触の手が伸びてきた。

神宮署、警察庁、マスコミ、暴力団に加え、禿富鷹秋の未亡人司津子までが裏帳簿のコピーを巡り暗躍する。禿鷹シリーズの完結?作品。『別冊文藝春秋』2008年7月号〜2009年11月号掲連載。



悪徳刑事ハゲタカこと禿富鷹秋の活躍については前作『禿鷹狩り』で完結したが、神宮署の裏帳簿のコピーという爆弾は残されていた。本作ではそれを巡り、過去の登場人物が様々な動きを見せる。今までのシリーズで残されていた謎の完結編でもあり、総決算ともいえる。シリーズの主人公が既に死んでいるのに、総決算も何もないものだが、これもまた作者の腕なのかもしれない。

本作で特に強烈なインパクトを残す登場人物は、目的達成のためならどんな手段でも執ろうとする女警部・岩動。その冷酷なまでの行動原理には恐れ入るし、ただ試験の結果がよかっただけで実際は甘ちゃんであるキャリア(ここでは警察庁警備企画課参事官、朝妻勝義警視正が代表格)とは何から何まで役者が違う。また、そんな岩動の攻撃や追求をひょうひょうと躱し続け、ノンキャリアならではの処世術を見せつける御子柴もたいしたものであり、そしてシリーズ初登場(一応前作最後にちょこっとだけ出ていたが)である禿富司津子の活躍にも驚きである。

警察側の登場人物で、「正義に燃える」人が誰一人いないことには現実を見せられたような気もするが、それは仕方のないことか。マスコミの汚い部分についてはどうでもいいけれど。

 今までのシリーズで活躍していた渋六興業の野田憲次や水間英人の活躍が今ひとつだったのは残念だったが、マスコミ側も含め、今まで張られていた伏線の多くが回収された一気呵成の結末は見事。連続するアクションシーンも含め、読了感は爽快である。

唯一といえそうな疑問点は残されているが、これに関して続編はあるのだろうか。