- 作者: 中井拓志
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1998/12
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 3回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
第4回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。1997年、単行本で発売。翌年、加筆訂正の上文庫化。
受賞作がらみのコンプリートを目指して読んだ一冊。作者には悪いけれど、元々ホラーというジャンルが苦手であるため、最初からマイナス評価の視点で読んでいた気がしなくもないが、それを除いても単なるB級ホラーだったような気がしてならない。文庫の解説者が言うような、カンブリア紀をネタにしているところなんかでも、その斬新さというものが全く伝わってこなかったのは、単に自分が無知なだけか、それとも作者の表現力が今ひとつだったからか。
テーマとしてはバイオホラーの一つになるのだろうか。感染者の左腕を捕獲し、脱皮して左腕単独で動き出すという未知のウィルスが題材となっているのだが、左腕だけが動き回るという恐怖感があまり伝わってこないのは自分の想像力が低いからなのだろうが、それを取り巻く人たちからも怖さがほとんど伝わってこないというのは描写力不足だと思う。
事実を知りながら隠蔽を続ける企業。何も知らず、また知ろうともせずに目の前の災厄がただ消えて無くなることを祈りながら動く職員。自らの組織と身に難題と非難が降りかからないようにお役所論理を振りかざす厚生省役人。研究だけに頭をとらわれ、周囲の動きなどを無視し、自らの行動論理だけで動き回る科学者。いかにもといったステロタイプな登場人物は多く出てくるが、それ以上の性格付けはされていないため、読んでいても記号体が動いている気にしかならなかった。プレテンの部分で、枝葉末節な部分に食い下がる科学者なんか、いかにもという感じで笑ってしまった。
結末の曖昧さも含め、なんかアイディアだけだなと思ったのは私だけだろうか。実験体として連れてこられた2人なんて、もう少し動かし方があっただろうに。