- 作者: 末浦広海
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/08/07
- メディア: 単行本
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北見若松総合病院院長の娘で、医者でもある小久保佐智子と付き合っていた槇村だったが、一恵の出現に動揺する。
翌日は半年交代の輪番制度の契約最終日。早朝に一恵は怪我をした体のまま、病院から姿を消した。同日、ドクターヘリ運航スタッフの長であり運行司令室を担当する信田豊は交通事故で亡くした妻と子供を弔うために休暇を取っていたが、出かけたまま連絡が取れなくなった。
槇村の周囲で次々と起きる事件。ヘリ墜落の事件は、警察だけでなく自衛隊まで出動した。何も知らないまま、事件の中心にいると感じた槇村は真相を追いかける。
2008年、第54回江戸川乱歩賞受賞作。応募時のタイトルは『猛き咆哮の果て』。
冒頭からドクターヘリが出てきて、予定外の墜落機搭乗員救出を行い、しかも機長と救出された方には過去の因縁があって、さらに機長と医者が恋人同士、とまあ、出だしは面白い。ドクターヘリについても必要以上の長ったらしい描写はなく簡潔にまとめられているし、自衛隊の過去についてもいかにもと思わせるもの。槇村が飼っている犬のカムイもいい味を出している。病院に勤める人々や、向かいの家に住みカムイの世話を手伝ってくれる津山夫妻や孫の綾香もいい人達ばかりで、一度会ってみたくなるような魅力がある。
と、第一章を読み終わった時点ではかなり期待したのだが、第二章からやや話がおかしくなってくる。知床の環境問題を絡めたまではよかったのだが、覚醒剤絡みの人物達の描写や行動はかなりおざなり。さらに主要登場人物が次々と姿を現すに連れ、その行動動機に首を傾げたくなる。まともな人物は出てこないのかよと突っ込みたくなるのは、作者の書き込み不足だろう。日本の自衛隊が、別の意味で恐ろしくなってきた(苦笑)。
形としては冒険小説だが、追いかけていくうちに終わっていましたという印象の方が強い。前半のいいムードが台無しになってしまったのは残念。都合よすぎる人物を登場させ、物語を簡単に終わらせてしまおうとしているのが特に勿体ない。設定そのものは悪くないので、もうちょっと構成の方を考えてほしかった。
応募時のタイトルは『猛き咆哮の果て』だが、センスなさすぎ。こんなストレートすぎるタイトルを付けるようでは、あまり将来性が見込めない。7回目の応募で受賞とあるから、実力を少しずつ付けていたのだろうとは思うが、とりあえずはセンスと安定感を身につけることが大事かな。