- 作者: 典厩五郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/10/01
- メディア: 単行本
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サントリーミステリー大賞・読者賞受賞作家が構想・執筆に十年を掛けた書き下ろし。以前書いた短編を長編化したもの(とはいえ、似ても似つかないものになったとは、本人の弁)で、2003年10月発売。
買うだけ買ってほったらかしにしていた一冊。読む気はあったのだが、表紙が気持ち悪くて何となく避けていた(って違うだろ)。
関東大震災後の混乱時に憲兵隊に虐殺されたことで有名なアナーキスト、大杉栄を主人公にしたミステリ。素人探偵が失踪事件の謎を追っているうちに、時の首相桂太郎なども巻き込んだ事件を嗅ぎつけるというハードボイルド。とはいえ、大杉栄が全然格好良くないのは困ったもの。事件関係者の女性にデレデレしているところなど、アナーキストのイメージから大きくかけ離れたもの(勝手な決めつけかも知れないが)。
失踪事件の謎、ペスト菌ばら撒きの謎も、真相を知ればそれほど意外なものではないし、面白いものでもない。この程度のことでここまで振り回されるのか、という印象もある。大逆事件で死刑判決を受けた幸徳秋水らを救おうと動きまわるのも、どこか真剣みが感じられない。
当時の偉人、有名人らがこれでもかとばかり出てくるのは特筆ものといってもいいだろうか。これだけの人数を、紹介することばかりに振り回されず、物語を動かしたのは大したもの。とはいえ、物語にほとんど関係ない人物まで登場させ、背景を説明するものだから、流れが途切れてしまったなと思うところが何ヶ所もあった。
明治末期の混乱した日本を、何十人もの人物を通すことで描いたのは実力がなせる業であろうが、それ以上の物語の面白さがなかったのが残念な作品である。