平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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詠坂雄二『リロ・グラ・シスタ』(光文社 カッパノベルス)

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)

吏塚高校の屋上で発見された、在校生の墜落死体。同じ頃、校内では名高い「吏塚の名探偵」が受けた、奇妙な依頼。それは、この事件での依頼人の無実を証明すること……。独特の文体、凝りまくった趣向。“青春彷徨推理小説(イミテーションハードボイルド)”を自称して、ずいぶんと奇妙な才能が出現した!(帯より引用)

登竜門Kappa-Oneレーベルから久々登場。書き下ろしデビュー作。



奇妙なタイトルだが、the little glass sister の略らしい。作者の名前をironic bomberと英訳しているのはどうかと思うが。

推薦文は綾辻行人佳多山大地綾辻推薦ということで、少なくとも無難なものではないことはすぐにわかる。問題はこれが吉と出るか、凶と出るかであるのだが。

高校を舞台とした学園小説。それでいながら、文体は一人称ハードボイルド。語り手は「吏塚の名探偵」と呼ばれているらしいが、過去や名前が出てくるわけではない。ハードボイルドの文体なのに、事件はなぜか「屋上で発見された墜落死体」という一昔前の不可能謎。おまけになぜか4色に分かれた装丁。胡散臭さがぷんぷんと漂ってくる。

設定は不協和音の塊だが、中身は一応ハードボイルド。それでいて最後は物理トリックが解明され、綾辻曰く「ぎりぎりの綱渡り(クロバット)」が展開される。

墜落死体を屋上に上げるトリック。屋上に上げる動機。いずれも過去の作品で見られるものだが、ハードボイルドな文体も含め、それら全てを融合させることにより、何とか見られる作品には仕上がっている。その仕上がりは、「本格ミステリを土台にした、本格ミステリではない作品」((C)T氏)である。ただ、よくわからない色分けのページも含め、腹を立てる人は腹を立てるだろう。

まあ、少し勘のいい人なら作者の仕掛けについて予想を付けるのは容易い。そして今のところ、仕掛け以上のものを書けていない事に気付くに違いない。二作目が書ける作者のようには思えないが、大丈夫だろうか。