- 作者: 高田侑
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/08/01
- メディア: 単行本
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2007年8月、書き下ろし。
帯にあった北上次郎の「親と子の、それぞれの生き方について描かれた胸に残る物語だ」という一文と、冒頭に書かれた「顔なし子」の言い伝えが面白そうで、とりあえず買ってみたのだが。「現代社会の歪みを描き切った」という帯の言葉がかなりむなしく響いた読後であった。
怪事件が発生するのは、物語の三分の一を過ぎてから。それも、本格的な事件が起きるのはもっと先の話である。それまでは、修司や桐也たちの過去の話が中心である。作者は過去の因縁などを丁寧に書こうと思ったのだろうが、いつまでたっても事件がおきないのだから、どうもまどろっこしい。それでも過去の話が面白ければまだ救いがあるのだが、寂れた村の類型的ないじめの話が主であり、面白さも恐怖感も何も味わえない。これだったらもっとスピーディーな展開を書くべきだっただろう。
事件が起きても、サスペンスをまるで感じさせない書き方がどうにも困りもの。「顔なし子」というせっかくの題材があるのなら、もっと生かすことは出来たはず。「顔なし子」がもたらす恐怖を物語に生かすことが出来ないから、何もかもが浮いたままで終わってしまっている。
親と子の生き方、というモチーフも中途半端。年老いた父親と子供の関係をもっと徹底的に書き込むべき。結局物語に没頭できるようになるのが最後も最後。親子の生き方の路線をもっと突き詰めてもよかったのではないだろうか。修司と和郎が交わす会話など、ところどころでは面白い部分もあったのがもったいない。
過去の話で埋め尽くされた前半部をもっと整理し、登場人物を減らせばもう少し何とかなっただろう。ホラーな要素であるはずの「顔なし子」。そしてサスペンス要素であるはずの連続怪事件。父と子のつながり。いずれも言葉が足りず、つながりが薄い。全てにおいて中途半端、という印象は最後まで変わらなかった。