平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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三津田信三『首無の如き祟るもの』(原書房 ミステリー・リーグ)

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)

奥多摩に代々続く秘守家の「婚舎の集い」。二十三歳になった当主の長男・長寿郎が、三人の花嫁候補のなかからひとりを選ぶ儀式である。その儀式の最中、候補のひとりが首無し死体で発見された。犯人は現場から消えた長寿郎なのか? しかし逃げた形跡はどこにも見つからない。一族の跡目争いも絡んで混乱が続くなか、そこへ第二、第三の犠牲者が、いずれも首無し死体で見つかる。古く伝わる淡首様の祟りなのか、それとも十年前に井戸に打ち棄てられて死んでいた長寿郎の双子の妹の怨念なのか――。(折り返しより引用)



三津田信三を読むのは初めて。ホラーのイメージが強いので、ホラーが苦手な私はどうも手に取る気が起きなかった作家である。本作の評判がとてもよいため、一度ぐらいは読んでみようと思って購入した。読んでみて驚きである。これほど凄い作家だったのか。もっと早く読んでみるのだったと後悔している。

戦国時代から伝わる淡首様の伝説と祟り。村を治める一族内における、家同士の権力争い。横溝正史の岡山ものを彷彿させる設定である。そして「十三夜参り」で死んだ双子の妹。その直前に小さな子供が見た首無。本格探偵小説ファンがゾクゾクするような展開だ。そして十年後に起きた連続首無し殺人事件。しかも密室のおまけ付。思わず驚喜してしまいましたね。どこかで見たことがあるような設定であるけれども、舞台がよいのか、作者の構想力が凄いのか、過去に読んだ作品のデジャブを感じることなく、新鮮な気持ちで読むことができた。

そして本格ミステリファンを喜ばせる解決。特に「謎の全ては、実はたった一つのある事実に気付きさえすれば、綺麗に解けてしまうのです」という科白は、もう涙ものの感動である。実際のところ、「ある事実」は見破る読者もそれなりにいると思うが、そこから犯行の全てに辿り着く読者はわずかだろう。一つ一つの謎は過去の作品の応用編といっていいが、それらの細かい謎とトリックを絡み合わせることで、作者はオリジナリティの高い謎と解決を産み出すことができた。素直に拍手を送りたい。
まあ、血液型が違っていたらどうしたんだろうというものすごく野暮な突っ込みもあるのだが。些細なことだけど、気になるんだよね、こういうこと。

ただ、最後の展開は、自分としてはやりすぎのイメージがある。戦後の本格探偵小説のいい雰囲気に心地よく酔っていたのに、最後になって現代本格ミステリの悪い部分に毒された結末を目にしてしまい、ちょっと悪酔いしてしまった。もちろんこれは、人によって意見が異なるであろう。これは単に好みの問題である。

傑作だ、という周りの読者の言葉に偽りは無かった。本格ミステリの、よい作品を読ませてもらいました。作者の他の作品も読んでみようかと思う。