- 作者: 三津田信三
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2007/04
- メディア: 単行本
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三津田信三を読むのは初めて。ホラーのイメージが強いので、ホラーが苦手な私はどうも手に取る気が起きなかった作家である。本作の評判がとてもよいため、一度ぐらいは読んでみようと思って購入した。読んでみて驚きである。これほど凄い作家だったのか。もっと早く読んでみるのだったと後悔している。
戦国時代から伝わる淡首様の伝説と祟り。村を治める一族内における、家同士の権力争い。横溝正史の岡山ものを彷彿させる設定である。そして「十三夜参り」で死んだ双子の妹。その直前に小さな子供が見た首無。本格探偵小説ファンがゾクゾクするような展開だ。そして十年後に起きた連続首無し殺人事件。しかも密室のおまけ付。思わず驚喜してしまいましたね。どこかで見たことがあるような設定であるけれども、舞台がよいのか、作者の構想力が凄いのか、過去に読んだ作品のデジャブを感じることなく、新鮮な気持ちで読むことができた。
そして本格ミステリファンを喜ばせる解決。特に「謎の全ては、実はたった一つのある事実に気付きさえすれば、綺麗に解けてしまうのです」という科白は、もう涙ものの感動である。実際のところ、「ある事実」は見破る読者もそれなりにいると思うが、そこから犯行の全てに辿り着く読者はわずかだろう。一つ一つの謎は過去の作品の応用編といっていいが、それらの細かい謎とトリックを絡み合わせることで、作者はオリジナリティの高い謎と解決を産み出すことができた。素直に拍手を送りたい。
まあ、血液型が違っていたらどうしたんだろうというものすごく野暮な突っ込みもあるのだが。些細なことだけど、気になるんだよね、こういうこと。
ただ、最後の展開は、自分としてはやりすぎのイメージがある。戦後の本格探偵小説のいい雰囲気に心地よく酔っていたのに、最後になって現代本格ミステリの悪い部分に毒された結末を目にしてしまい、ちょっと悪酔いしてしまった。もちろんこれは、人によって意見が異なるであろう。これは単に好みの問題である。
傑作だ、という周りの読者の言葉に偽りは無かった。本格ミステリの、よい作品を読ませてもらいました。作者の他の作品も読んでみようかと思う。