- 作者: 蒼井上鷹
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2006/10
- メディア: 新書
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僕の身代金は五千万円だって。ショートショート「値段は五千万円」。
ヘルパーの静が勤めていたりくの部屋に、札束が隠されていた。「青空に黒雲ひとつ」。
バーで飲んでいた男は、売れない役者。「天職」。
酔うと名人スリになってしまう男が失敬してきたのは鍵。ショートショート「世界に一つだけの」。
十七年後にこの酒をここで飲もう、二人はそう約束した。「待つ男」。
この人は、平凡な私のどこが好きなんだろう。ショートショート「私のお気に入り」。
恋人の部屋に行ったら、彼はシャワーを浴びたまま死んでいた。ショートショート「冷たい水が背筋に」。
新進ピアニストだった弟は殺されたとき、右人差し指を切り取られていた。「ラスト・セッション」。
私がこの街を訪れたのは、小学校卒業以来だった。ショートショート「懐かしい思い出」。
バーの女の子に渡した「ミニモス」には、盗聴器を仕掛けていた。ショートショート「ミニモスは見ていた」。
元同僚の妻から、夫が帰ってこないと電話があった。そして夫は死体で発見された。「二枚舌は極楽へ行く」。
「小説推理」掲載作品に書き下ろしを加えた短編集。
「小説推理賞新人賞受賞作や協会賞候補作を収録した処女作『九杯目には早すぎる』でミステリファンから注目を浴びた作家、早くも三冊目。作品間に微妙なつながりを持たせたり、各編毎に参考文献を載せるなどの仕掛けもそのまま。
小心者のドタバタぶりや、奇妙な味わいが何ともいえない面白さを醸し出していた作者なのだが、本書を読むとそろそろ欠点が目立ってきた、という感がある。「ラスト・セッション」みたいに仕掛けがピタッと決まれば面白いのだが、残念ながら「野菜ジュースにソースを二滴」みたいに着地が決まらない作品も見られるのだ。アッと言わせようとストーリーをひねるのはいいのだが、途中で内容がわからなくなったり、結末が分かりづらい(ショートショートにとくに多い)ところが目立つ。奇妙なシチュエーションを設定するのはいいのだが、もう少しわかりやすい構成を心がけるべきだろう。
執筆速度が速いせいか、粗製濫造になっているのではないか、という不安が何となくある。勿論、単純に筆が早いだけかもしれない。アイディアが溜まっていただけかもしれない。それでも、腰を落ち着けた作品を読んでみたいと思うのだ。今のままで終わってしまうには勿体ない。