- 作者: 樋口有介
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/07/22
- メディア: 文庫
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1990年、講談社より刊行。
樋口有介は結構好き。作品全てを読む、とまではいかないが、この人の青春ものや柚木ものは極力追いかけるようにしている。この人の描く作品は、どれも人物が魅力的。主人公から脇役に至るまで、登場人物がみんな輝いているんだよね。作品によって描かれる姿は違うけれど、魅力的なことに代わりはない。
本作品に出てくる柚木草平は、大好きなキャラクターの一人。とにかく格好いい。字面だけ見るととてつもなく気障な科白を、いとも簡単に口に出し、それが決まるキャラクターって、なかなかいない。しかもそれが無意識に出ているのだからなおさら。外見に関する描写は全くないけれど、普通の人なんだろうな、と思ってしまう。だけど、内面から出てくる格好良さが外に滲み出ているというか。だからこそ、周りの女が放っておかないのだろうと思う。柚木はいつも美女と出会い、悩んでばかりいるけれど、まあ自業自得だ。
このシリーズ、柚木というキャラクターばかりに目がいってしまいがちだけど、描かれている事件は結構ハード。人の醜さを浮き彫りにしているものが多いのだが、それがさらっと流れてしまうのは、やはり主人公のキャラクターと言動なんだろう。深刻になりそうなところでうまく救いの手が入っている。
柚木シリーズは、日本のハードボイルド史を語るうえで、描かせない作品群である。今回、創元推理文庫に再録されることとなったのは凄く嬉しい。シリーズ続刊も近刊として予定されているようなので、とても楽しみである。
このシリーズは再読なのだが、読んだのは文庫新刊のときだったかな。もう10年以上も昔になるのか。そういえばこの本が単行本で出た頃、樋口有介は直木賞に一番近いミステリ作家という呼ばれ方をしていたよな。この人には直木賞を取ってほしかったと心の底から思ってしまう。直木賞そのものの価値云々を抜きにしてね。