平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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多島斗志之『CIA桂離宮作戦』(徳間文庫)

極寒の地シベリアを肥沃な穀倉地帯にする!!――これは建国以来のソビエトの夢だ。その実現のためにソ連は「気候改造」を計画している、との情報をキャッチしたCIAは、日本の内閣情報調査室に共同作戦を提案してきた。内閣室長稲月修造とCIAのバリンジャーの作戦は、来日中のソ連国家計画委員会議長ミハイルを誘拐して尋問しようというものだ。そして、その場所に選ばれたのが、京都の桂離宮だったが……。(粗筋紹介より引用)

1987年3月刊行『ソ連謀略計画(シベリア・プラン)を撃て』を改題。



ソ連による気候改造計画を阻止するため、来日中のソ連要人を誘拐して尋問する。一歩間違えば国際問題に発展するような計画であるが、計画そのものはとても単純である。シンプル・イズ・ベスト。単純な計画ほどわかりやすく、騙されやすい。

そしてまた、物語もシンプルに創られている。最近の作家なら、計画に関わる人たちの生い立ちや背景、内面などをもっと深く掘り下げていくだろう。……掘り下げると描けば聞こえがいいが、実際は無駄なページの使い方でもある。登場人物に感情移入させるために、余計なことを書いているだけのことだ。本書のように最小限の描き方でも、必要なことさえ描いてあれば、読者は登場人物に共感し、物語に没頭することができるのだ。

今から20年近く前に発表された作品である。ソ連KGBが出てくるなど、時代設定は古い。だからといって、物語自体が古びているということはない。時代設定さえ把握してしまえば、あとは物語の魅力に取り憑かれることは間違いない。

ただ、あまりにもシンプルすぎるという声が挙がるかもしれない。特に最近の重厚な冒険小説になれてしまった人から見たら、物足りなさを感じるだろう。あと、このタイトルはあまりにも陳腐。もうちょっと何とかならなかったのか。絶対タイトルで損をしている。