平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

横溝正史『完本 人形佐七捕物帳 一』(春陽堂書店)

 春陽堂書店が初めての「人形佐七捕物帳」全五巻を刊行したのは、昭和十六年のことで、 最初の作品集成である。昭和四十八年には春陽文庫より「人形佐七捕物帳全集」全十四巻を刊行。 一五〇篇の作品を収録し好評裡に版を重ねたが、近年、研究者たちにより、 横溝正史が書き遺した「人形佐七捕物帳」は全一八〇篇と確定した。
 ここに全作品を発表順に初めて集成、綿密な校訂を施し、詳細な解題・解説を附し、面目を一新した 「完本 人形佐七捕物帳」全十巻をお届けする。昭和を代表する国民作家・横溝正史が愛惜を持って描いた 江戸の世と人形佐七の活躍を余すところなくご味読いただきたい。
 江戸を舞台に、人形のような色男、佐七が繰り広げる推理劇。美男で好色な佐七と焼きもち焼きの年上女房お粂との夫婦喧嘩、佐七の子分の江戸っ子の辰と上方っ子の豆六のやりとりなど、ユーモラスな描写も満載。戦前~戦後に書き継がれた妖艶・怪奇・戦慄の作の全貌を知らしめる!(書籍案内より引用)
「羽子板娘」「謎坊主」「歎きの遊女」「山雀供養」「山形屋騒動」「非人の仇討」「三本の矢」「犬娘」「幽霊山伏」「屠蘇機嫌女夫捕物」「仮面の若殿」「座頭の鈴」「花見の仮面」「音羽の猫」「二枚短冊」「離魂病」「名月一夜狂言」「螢屋敷」「黒蝶呪縛」「稚児地蔵」を収録。
 2019年12月、刊行。

 

 五大捕物帳と言えば、岡本綺堂『半七捕物帳』、野村胡堂銭形平次捕物控』、横溝正史人形佐七捕物帳』、佐々木味津三右門捕物帖』、城昌幸『若さま侍捕物手帖』。そのうちの一つ、『人形佐七捕物帳』といえば、神田お玉が池の色男、人形佐七が恋女房お粂、子分の巾着の辰五郎、うらなりの豆六とともに活躍する話である。作者が横溝正史ということで、本格ミステリとしての色が濃い作品もあれば、草双紙趣味の怪奇色が濃い作品、そして捕物帳ならではの人情物もある。半七や銭形平次ほど江戸の描写は色濃くないが、文化文政の時代を十分楽しむことはできる。時々、男性にとって都合の良い性描写が出てくるのは、書かれた時代を考えると仕方がない。
 第一巻ということで、佐七が初登場しクリスティの某作品を彷彿とさせる「羽子板娘」、お粂との馴れ初め「歎きの遊女」(辰も初登場)、辰が茂平次にしょっ引かれる「音羽の猫」、佐七の偽物が登場し佐七が縄目を受ける「離魂病」、招かれた宴席での殺人事件を佐七が解き明かす「名月一夜狂言」、豆六が初登場の「螢屋敷」など。
 やはり書き始めからなのか、それとも後年に書き足しをしたからか、前半が重くて後半が駆け足の作品が多いのはちょっと残念。とりあえず主要登場人物四人、それに佐七を引き立てる南町奉行所の与力神崎甚五郎や、佐七の親代わりであるこのしろの吉兵衛、佐七の敵役である海坊主の茂平次などのレギュラーメンバーがそろってからが面白いので、第二巻以降以降が楽しみ。

ミステリの世界を漂う

https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/mystery.html
「全集を読もう!」に『完本 人形佐七捕物帳』(春陽堂書店)を追加。各巻の詳細は後日。実はお気に入りの作品を飛び飛びに読んでいるので、なかなか一冊が終わらない。第十巻だけ先に読み終わったりとかしている。
 全集は老後の楽しみと思いながら買っているのだが、買うだけ買って何十年も本棚に積んだままというのは問題だなと思って、少しずつ読もうとしている。

犯罪の世界を漂う

https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/climb.html
無期懲役判決リスト 2021年度」に1件追加。

 これで気になる公判の判決も一段落かと思ったら、来週から小田浩幸被告、森岡俊文被告の公判が始まるのですか。コロナが少し落ち着いてきたら、一気に裁判が増えたように感じるのは、気のせいですかね。

リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 英(ガーディアン)、米(ウォール・ストリート・ジャーナル)ほか各媒体で年間ベスト・ミステリに選出。主要書評誌で軒並み絶賛され、異例のスピードで100マン部を突破したベストセラーがついに登場。
 引退者用の高級施設、クーパーズ・チェイス。ここでは新たな開発を進めようとする経営者陣に住人達が反発していた。施設には、元警官の入居者が持ち込んだ捜査ファイルをもとに未解決事件の調査を趣味とする老人グループがあった。その名は〈木曜殺人クラブ〉。経歴不詳の謎めいたエリザベスを筆頭に一癖も二癖もあるメンバーたちは、施設の経営者の一人が何者かに殺されたのをきっかけに、事件の真相究明に乗り出すが――新人離れした圧倒的完成度でイギリスで激賞を浴び、大ヒットとなった傑作謎解きミステリ。(粗筋紹介より引用)
 2020年、発表。全英図書賞の年間最優秀著者賞を受賞。2021年9月、邦訳刊行。

 

 作者はBBCのバラエティー番組のプレゼンター、コメディアンとして活躍。本書はデビュー作。
 高級高齢者施設で四人のメンバーが、創始者である元女性警部で元メンバーのペニーが持ち込んだ未解決事件ファイルを読んであれこれ推理している。創始者で経歴不詳のエリザベス、元看護士のジョイス、元有名労働運動家のロン、元精神科医のイブラヒムがメンバー。施設の共同経営者であるトニーが殺害されたため、クラブに時々来ていた女性巡査のドナを通して捜査の情報を知り、事件の解決に乗り出す。
 タイトルからして、クリスティーの『火曜クラブ』(創元だと『ミス・マープルと十三の謎』)をモチーフとしていることがわかる。それにしても、登場人物が多い。連続殺人事件に加え、過去の事件なども重なるものだから、事件の全体像を把握するのが少々面倒。そのくせ、ときどき脱線するのだから、始末に負えない。英国本格推理小説特有のユーモアというやつが、苦手。三人称視点なのに所々でジョイスの視点が入ってくるのも読みにくい。
 序盤はそれでも面白く読めたんだけど、だんだんと読みづらくなり、中身を把握するのに苦労した。一応謎解きミステリと謳われているけれど、別にトリックがあるわけでもなく(今時あるほうが珍しいが)、丹念に事件を追っていけば解けるもの。それにしても、長すぎないか。1/4は削れそうな気がする。四人の会話を中心とした作品にすべきで、事件のほうはもう少しシンプルでよかったと思う。
 これがベストセラーなのか。どこがいいのだろうと思う次第。まあ、作品の世界観が面白いのだろう。続編にはあまり期待できないが。