平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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オーエン・セラー『ペトログラード行封印列車』(文藝春秋)

 1917年、ロシアで二月革命が起きた。世界戦争(第一次世界大戦)中のドイツはロシアを戦争から切り離すため、ドイツとの和平を条件にチューリッヒに亡命しているヴラジーミル・イリイッチ・ウリヤーノフ(後のレーニン)と妻ナージャ、その片腕グレゴリー・ジノヴィエフらをロシアへ帰国させようとする。チューリッヒからドイツ、スウェーデンフィンランドを経てロシアのペトログラード(現サンクト・ペテルブルグ)へ向かうのだが、ドイツ領内では列車から離れず、ドイツ市民と接触させないようにしたため、封印列車と呼ばれた。ドイツ外務省帝国東方情報局員であり、内心ではウリヤーノフを尊敬しているカスパー・エーラーは、作戦を成功させるべくチューリッヒに飛び、ウリヤーノフと接触するが、ロシア秘密警察も動いていた。
 1979年、イギリスで発表。1981年8月、邦訳単行本刊行。

 実際に起きた、封印列車によるレーニンの帰国を舞台としたエスピオナージ。ということで、実在の人物と小説の人物が入り混じる。この人数が多い。多すぎる。登場人物一覧にも載っていない人物が山ほど出てくるし、ドイツ名やロシア名だから読みにくいし覚えづらい。それに、このレーニンの封印列車は有名らしいのだが、全く知らなかった。この歴史的事実を知っていれば、もう少し楽しく読めたのだと思う。
 中盤になってエーラーが動き出すと、ようやくページをめくる手に力が入ってくる。ウクライナが絡むところは、現状を考えると色々と考えさせられる。ロシア秘密警察との攻防は、読んでいて迫力がある。
 ただレーニンのその後を多少なりとも知っていると、読了後の満足度はもう一つ。史実を知っていても楽しめるほどの面白さには、残念ながら到達しなかった。歴史の裏舞台をもう少し匂わせてくれると、まだ違ってくるのになと思いながら読み終わってしまった。
 オーエン・セラーはスパイものを中心に執筆していて、イギリスでは有名な作家とのこと。ロンドン在住の公認会計士だそうだ。