平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笹本稜平『ボス・イズ・バック』(光文社)

ボス・イズ・バック

ボス・イズ・バック

S市最大の暴力団、山藤組の山藤虎二組長、通称山虎が引退して堅気になると聞き、大事な顧客を失うことになると大いに慌てた私立探偵のおれ。慌てていくと、何と山虎は仏門に入るという。右腕である若頭の近眼のマサに聞いても、どうも本当らしい。山虎は得度し、山藤組は解散届を出した。おれは何か裏があるものと思って調査する。「ボス・イズ・バック」。

S署の悪徳刑事、ゴリラこと門倉権蔵が事務所にやってきて、おれに調査を依頼した。新婚のゴリラは隣の町内にある一戸建ての家を買おうとしたが、相場に比べればべらぼうに安く、しかも事件があったというわけでもないのに三年で四回も売りに出ている。住みやすい場所と評判の場所なのに、なぜその家だけ何回も売りに出されるのか。「師走の怪談」。

近眼のマサはなんと、宝くじが当たって5億5千万円の大金が転がりこんだ。その金を元手に、マサは介護ビジネスを始めるという。しかもその会社の社長におれがなってほしいと依頼してきた。ヤクザは表立てないので、飾りとしてだが、年収は今の探偵家業より高い。しかしどこか腑に落ちないところがある。「任侠ビジネス」。

朴念寺の喜多村向春和尚の依頼内容は、50年前の高校二年の時に結婚を誓い合った幼馴染みの久美ちゃんこと木村久美子を探してほしいというものだった。女房子供に逃げられ独り身のまま好き放題やってきた和尚だったが、ここ一週間ほど夢の中に出てくるという。さっそく調査を始めたおれだった。「和尚の初恋」。

山虎の愛犬、ブルテリアのベルが三日前から縁の下に潜り込んで出てこないという。山虎以外でベルに気にいられている助手の由子の頼みで、山虎の元をおとずれたおれはベルを縁の下から連れ出す計画を立てる。そんなころ、対抗組織の橋爪組の組長から、おれのもとへ探りの電話がかかってきた。「ベルちゃんの憂鬱」。

由子が失踪して三日たった。家族にも思い当たる節は無いという。ゴリラに相談し、近眼のマサのところへ行くと、組長のお気に入りの壷を割ってしまい逃げ出した砂だという組員を探してほしいと依頼された。ガラクタの壷だったが、割られた壷は二重底になっていて、一億はくだらない宝飾品が出てきたので、報奨金を出すと山虎はご機嫌であった。するとゴリラから連絡があり、なんと由子は殺人事件の容疑者として指名手配されているという。「由子の守護神」。

『宝石 ザ・ミステリー』他に2011〜2015年に掲載。2015年10月、刊行。



『恋する組長』のまさかの続編。前作の単行本が2007年5月。短編「ボス・イズ・バック」の掲載が2011年12月。一体何をやっていたんですか、作者は。他の連載が忙しかったんだろうなあ。しかも年に1〜2本しか掲載されないし。

前作同様、しがない私立探偵が暴力団やその周辺の人たちの調査を受け付け、事件にまきこまれる軽ハードボイルド。暴力団排除条例に四苦八苦する暴力団の姿というのも、こういう形で読まされると思わず同情してしまうが、実態とは違うから楽しめるのだろう。

何も考えず、頭をからっぽにして楽しめれば、それでいい作品集。偶には堅苦しいことを考えずに本を読むのもいいことだ。