平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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トニー・ケンリック『俺たちには今日がある』(角川文庫)

俺たちには今日がある (角川文庫 (5929))

俺たちには今日がある (角川文庫 (5929))

あと一か月の命…医者ははっきり宣言した。現代医学では完治不能の病をハリーは背負いこんでしまったのだ。茫然自失が自暴自棄へと変りはじめた頃、ハリーは同じ病を持つグレースという女性を紹介された。

初めての出会いで二人は意気投合した。あと一か月を生きてゆける、わずかな希望が生まれた…その帰り、二人は大男に痛めつけられている一人の男を救った。男は店の乗っ取りを企むギャングの大ボスに脅されていたのだ。

ハリーは男に力をかすことを決意した。あと一か月の命となれば、もう怖いものはない――暗黒街の大ボスと対決するため、ハリーはまず、奇妙な才能(・・)を持つ男女を集めはじめた。ハリーが編みだした奇策とは?(粗筋紹介より引用)

1978年発表。ケンリック七作目の長編。1985年2月、翻訳刊行。



『スカイジャック』『バーニーよ銃をとれ』など奇抜な設定とスラプスティックな作風が特徴のケンリック作品。手に取るのは久しぶりだが、本作のドタバタぶりはひどい(誉め言葉)。ギャングと対峙するためとはいえ、よくぞこんな計画を考え出したものだと感心する。ただ、「奇妙な才能」を持つ男女たちはとっくの昔に別の職業に転身しているとしか思えないし、そもそも暗黒街の大ボスが力しかないこんな大ボケでいいのかと突っ込みたくなる気もするが、まあ小説だから野暮な話。とはいえ、違和感を覚える人はいるかもしれない。

小説だと思って割り切って読むと、ケンリックのドタバタな作風ぶりが健在だったというか、よりひどくなっていて面白い。もっとも、この手の作風が好きか嫌いかで、評価はガラッと変わるだろう。初期の作品はドタバタが嫌いな人でも楽しめる作品だったが、本作はかなり悪乗りすぎ。できれば最後はもうちょっとスッキリさせてほしかった。

やっぱりこの人の作品は面白い、そう思わせた一作。もっとも次の『暗くなるまで待て』はシリアス路線に変わるらしい。しばらく手に取っていなかったが、他の作品も手を出してみようかと思う。