平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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神津慶次朗『鬼に捧げる夜想曲』(東京創元社)

鬼に捧げる夜想曲

鬼に捧げる夜想曲

――昭和二十一年三月十七日。乙文明は九州大分の沖合に浮かぶ満月島を目指して船中にあった。鬼角島の異名を持つこの孤島には、戦友神坂将吾がいる。明日は若き網元の当主たる将吾の祝言なのだ。輿入れするのは寺の住職三科光善の養女優子。祝言は午後七時に始まり、午前一時から山頂に建つ寺で浄めの儀式があるという。翌朝早く、神坂家に急を告げる和尚。駆けつけた乙文が境内の祈祷所で見たものは、惨たらしく朱に染まった花嫁花婿の姿であった……。

――この事件に挑むのは、大分県警察部の兵堂善次郎警部補、そして名探偵藤枝孝之助。藤枝が指摘する驚愕のからくりとは? 続発する怪死、更には十九年前の失踪事件をも包含する真相が暴かれるとき、満月島は震撼する。(粗筋紹介より引用)
2004年、第14回鮎川哲也賞受賞。応募時タイトル「月夜が丘」。加筆修正のうえ、同年10月刊行。



若き網元の友人が戦争から帰って友人を訪ねる……冒頭から『獄門島』の真似かと思って読んでいたら、横溝正史作品と同じような構造で進むから驚いた。名探偵の藤枝孝之助と、事件を追いかける乙文明という取り合わせは京極夏彦を真似たと思われるが、それ以外は横溝正史劣化コピー。個人の趣味で書くのならいいけれど、これで応募したら普通は一次予選で撥ねられるだろう。なぜこれが受賞できたのか、選評を読んでもさっぱりわからない。

トリックがすごければまだ許せるが、これがお笑いとしか思えない内容。特に捨てトリックの方は、誰もこんなこと考えないよというレベルの低さ。棺とコントラバスを見間違う人なんていねえよ。動機については、いくら戦後すぐの時代とはいえ、有り得ないレベルで説得力に欠ける。

はっきり言って駄作。パロディとして同人誌に載せるならまだしも、これを本気で応募すること自体信じられないし、ましてや受賞させたことはもっと信じられない。いくら作者が19歳だからといったって、読者にお金を出して買わせるということをもっと真剣に考えてほしい。オリジナリティが全くない作品を書く作者に、将来性などないだろう。

受賞から10年以上経つが、作者のその後の作品は無し。選考委員に見る目が無かったとしか言いようがない。