平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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桐生祐狩『夏の滴』(角川ホラー文庫)

夏の滴 (角川ホラー文庫)

夏の滴 (角川ホラー文庫)

僕は藤山真介。徳田と河合、そして転校していった友達は、本が好きという共通項で寄り集まった仲だったのだ――。町おこしイベントの失敗がもとで転校を余儀なくされる同級生、横行するいじめ、クラス中が熱狂しだした「植物占い」、友人の行方不明……。混沌とする事態のなか、夏休みの親子キャンプで真介たちが目の当たりにした驚愕の事実とは!? 子どもたちの瑞々しい描写と抜群のストーリーテリングで全選考委員をうならせた第八回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。 (粗筋紹介より引用)

2001年、第8回日本ホラー小説大賞長編賞受賞。同年6月、単行本化。2003年9月、文庫化。



主人公・真介は小学四年生で、舞台はテーマパークが失敗して多額の負債を抱え込んだ町。そしてクラスは、両足が不自由な車椅子の徳田芳照を支え合うというドキュメンタリー「とっきーと3組のなかまたち」が県のケーブルテレビで定期的に放映されている。その裏では、八重垣潤という少女がクラス中から虐められている。「目」がある時はいい子ぶって、裏では平気で残酷になれるのは子供ではよくあること(中高生でも、大人でも当然あるよな)。それぐらいは物語として許せるが、その他の考え方や行動が、とても小学生のものではない。徳田たちが行方不明の友達を追い求める方法なんてほとんど大人のもの。真介の考え方は子供とは思えないぐらい老成しているというか。所々で小学生らしい行動も出てくるから、違和感が半端ない。

前半はそんな大人びた小学生たちが動き回るだけでホラーの要素は全然無く、読んでいて退屈だったが、後半を過ぎたあたりから物語は一気にヒートアップする。

子供が行方不明になった真相、というかネタ(町の秘密)は昔からあるものだが、それを取り巻く大人たちが気持ち悪い。秘密を守る側も、秘密を暴こうとする側も。そしてエピローグの展開はひどい。ひどすぎる(褒め言葉)。よくぞここまで世界を堕としたものだと言いたくなるぐらいひどい。もっともこれはこれで結構面白かったが。

主人公である真介たちも救いが全く無い。最も結末まで行っても、真介たちを可哀想と全く思えないのは、作者の筆がよかったのだろう。河合みゆきはちょっとだけ可哀想だったなあ(苦笑)。ただ結末の話が広がりすぎたため、彼らの話がぼけてしまった感があるのは否めない。いわゆる町の秘密と、教室でのいじめとその顛末については、どちらかに絞った方がすっきりしたのではないかと思う。普通の小学生が、友人の失踪を追うだけの展開にした方がわかりやすかった。そうすれば、後味ももう少し違ってきただろう。

それにしても「子どもたちの瑞々しい描写」というのは皮肉か? 子どもって、残酷だよね。これも昔からあるテーマだけど。