- 作者: 樋口明雄
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/11/21
- メディア: 単行本
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しかし八ヶ岳の山は痩せ、熊などの「害獣」が里に下りてきて農家や作物を荒らすようになってきた。法律で縛られ、昔みたいに自由に銃を使うことができない地元猟師たち。獣が絶滅しようが、「害獣」の駆除を願う農家たち。そんな彼らを守ろうとする自治体。逆に獣たちへの一切の干渉を否定して抗議する動物愛護団体。WLPの活動は、まさに四面楚歌であった。そしてとうとう、山の獣が餌として人を襲うようになってきた。そんな状況の中、新海が墜落死した。
2008年11月、単行本で書き下ろし刊行。同年、第27回日本冒険小説協会大賞受賞。2010年、第12回大藪春彦賞受賞。
骨太の冒険小説を書き続けてきた作者がブレイクした一冊。最も私はルパン三世のゲームブックの印象の方が強いのだが。
メインで取り扱われているのは野生動物被害問題である。環境省の出先機関、地元猟師、地元農家、動物愛護団体たちがそれぞれの立場で主張を続ける。さらに環境問題も重なり、市長を初めとする自治体と研究者も対立する。さらには親の利害関係も絡んだいじめ問題、父と娘の距離の問題なども重なる。人間側だけでも山ほどあるのに、獣側である巨大な熊の「稲妻」、さらに巨大なカガミジシ「三本足」も加わり、死闘を繰り広げる。しかも殺人事件の謎まで加わる。
こうやって並べてみると、よくもまあこれだけ盛り込んだものだと感心してしまう。しかもそれらがバラバラにならず、密接に関わり合うのだから大したもの。ボリュームは相当なものだが、結末まで一気に読んでしまった。重いテーマを幾つも取り扱いつつ、エンターテインメント性を失わない筆致に感心した。特に終盤、人と獣との死闘を交えつつ、様々な問題と伏線が一気に収束されていくのはまさに圧巻である。
七倉たち人とベアドックの交流、寡黙な老猟師の戸部の生きざまなど、見るべき所は他にも多い。あとは読んでのお楽しみと言うべきだろう。
第一級のエンターテインメントであり、骨太な冒険小説の傑作である。