- 作者: パトリシアハイスミス,小倉多加志
- 出版社/メーカー: ミステリアス・プレス
- 発売日: 1990/06
- メディア: 文庫
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二年ぶりにヨーロッパでロザリンドと再会したドンは、そのまま求婚してアメリカへ帰った。ドンはロザリンドからの返事を待つが、手紙は全然届かない。隣と間違えているのでは、と思ったドンは、手紙が溜まっている隣の郵便箱から航空便を持ち出した。それは、隣に住む女性への、遠方からのラブレターだった。「恋盗人」。
11歳のヴィクターは、自分のことばかり考えている母親にいつも子供扱いされていた。ある日、母親は夕食のおかずとしてすっぽんを買ってきた。ところがヴィクターは、自分へのお土産だと勘違いする。「すっぽん」。
ジェラルディーンは、家から一歩も外へ出してくれない夫の口にクロロフォルムを染み込ませたぼろ布を口に当てて殺してしまう。姉のいるバーミンガムへ行く途中、小さい頃両親に連れられていったアリステアに立ち寄る。「モビールに艦隊が入港したとき」。
動物学教授のクレイヴァリングはひとり南海の孤島へ船出した。伝説の巨大かたつむりを見つけ、歴史に名を残そうというのだ。だが運よく発見には成功したものの、船が流され、カタツムリと戦う羽目に。「クレイヴァリング教授の新発見」。
7年間一緒に暮らしているアリスが眠ったのを確認し、ハッティーはアリスが姪からもらったカーディガンにはさみを入れた。翌朝、そのことに気付いて嘆くアリスを見て、ハッティーは腹を抱えて笑った。その夜、アリスはハッティーに復讐するため、はさみを手に取った。「愛の叫び」。
精神分析医バウアー博士の下に今日もアフトン夫人はやって来て、55歳の夫が肉体を鍛えることに取り憑かれているのを止めてほしいと訴える。そしてバウアー博士は、夫がいつも身体を鍛えているというホテルの一室に行く。「アフトン夫人の優雅な生活」
21歳のルシールは,クリスチャンセン家の保母(ナニー)として雇われる。一生懸命働いて休みも取らず、挙げ句の果てに給料が多いと奥様に訴え、変わった人ねと言われてしまった。その言葉に動揺したルシールの取った行動は。ハイスミスのデビュー作、「ヒロイン」。
自動車事故で妻と息子を失ったメリックは、25年前に新婚旅行で来たアマルフィに来た。メリックは小柄なルンペンの少年と知り合って気に入り、ホテルへ食事に誘った。「もうひとつの橋」。
ハッベルは毎週日曜日に趣味で絵を描いていたが、いつもアパートの前で騒ぎながらキャッチボールをする大人たちに苛々し、とうとう石を投げつけた。「野蛮人たち」。
イーディスは、しじゅうからの親子が離れて空になったはずの巣箱から不気味な何かがいるのに気付いた。夫のチャールズは巣箱を確認するが何もいない。気のせいかと思ったら、その何かは家の中にまで現れるようになった。「からっぽの巣箱」。
1970年、アメリカおよびイギリスで刊行。当時東京、ニューヨーク、ロンドンの出版社が連携して出していたミステリアス・プレスより1990年6月刊行。1945年のデビュー作から、1970年の作品まで計11編収録。タイトルはイギリス版に基づく。
サスペンスの鬼才といわれるハイスミスの傑作短編集。ハイスミスの作品は悪夢を見そうな嫌らしさと不気味さがあるのだが、それは短編でも変わらない。それどころか、短編の方が短い分、余計に強烈な印象を与えてくれるのだから困ったもの。それだけ、強烈な印象を持つという証拠なのだろうが。筆致そのものは淡々としているのに。
作者はカタツムリの観察が趣味とのこと。そのせいか、カタツムリを題材とした「かたつむり観察者」「クレイヴァリング教授の新発見」の詳細な描写は不気味すぎる。他の作品でも不気味だったり恐ろしかったりするのだが、カタツムリという存在がどうも苦手なので、読んでいるだけであのぬめぬめ感が身体にまとわりつくようだ。
他の作品は、人の心理の不可解さ、見知らぬものへの不安などを取り扱っている。シンプルな作りなのに、描き方が上手いから、恐怖と不安感が漂ってくる。
やっぱり怖い作家だよ、ハイスミスは。