平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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山田風太郎/高木彬光『悪霊の群』(出版芸術社)

悪霊の群

悪霊の群

昭和25年12月、東京。元陸軍参謀と名乗る相馬敏秋が東洋新聞社の社会部を訪ねる。相馬はある情報を提供しようとするが、3月末に相馬に騙された経験がある社会部長と真鍋は、相馬を追い払う。真鍋は杉村国務大臣の離婚の影に、歌手の泉笙子がいるという噂を追いかけるよう命じられた。取材後、真鍋が夕刊にその記事を書いた夜、杉村が失踪。真鍋達は、笙子が買った館で、殺されて眼球が抉られた杉村を発見する。そこへ訪れてきた笙子は真鍋達をかいくぐり逃亡。追いかける真鍋達が出会ったのは、酔いどれ医者の荊木歓喜だった。

『講談倶楽部』1951年10月号〜1952年9月号まで連載。1955年1月、東京文藝社よりハードカバー刊行。1956年2月、1964年8月に再刊後、長らく絶版だった作品が2000年3月に復刊。荊木歓喜と神津恭介が競演した幻の作品。



名前のみ有名で、ある意味幻と化していたが、2000年に出版芸術社から出たときは、何はなくとも、といった勢いで購入したのだが、何となく読むのをためらっていた作品。というのも、荊木ものを面白く読んだ記憶が無い。言ってしまえば肌が合わない。アイディアが高木、執筆が山田となればさらに不安感は高まる。しかしそろそろ読もうかと思って手に取ってみたけれど、やっぱり今一つだった。

戦争の傷跡が残る時代とはいえ、胡散臭い人物がてんこ盛りに出てきて、しかもそれぞれが物語に密接に絡んでいるのだから質が悪い。スピーディーというかドタバタしすぎているというか、立て続けに殺人が起きる月刊誌連載ならではの展開の速さは活劇スリラーならいいのかも知れないが、本格ミステリを期待していた方からしたらマイナスと思える。最後には全ての謎が収束する展開にはなっているものの、結末の神津の言葉が言い表しているように、二人がそろっていてこんな終わり方なの?と愚痴を言いたくなった。

山田風太郎のアクの強さが好みでない人にとっては、今一つとしか言い様がない作品。幻のままで良かった、とは思わないけれど、長く出版されなかった理由は当時の読者に受け容れられないだけだったんじゃないかとも思ってしまった。