- 作者: 瀬川ことび
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1999/12
- メディア: 文庫
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獣医学系の学会とカルト人気を誇るロックバンドのコンサートが重なったため、平日なのにホテルエクセレントは大忙し。新米フロントマンの杉野は、エレベーターの中で老婆の幽霊を目撃。慌てる杉野へ、先輩の広瀬はホテルの怪談話を聞かせる。夜中の巡回中、杉野は階段に隠れていた追っかけの女の子を見つけた。「ホテルエクセレントの怪談」。
一人暮らしの西田直人のアパートへやって来たのは、アルバイト仲間の田嶋だった。ただし、車にはねられて、顔の左半分がつぶれたゾンビの状態で。なんだかんだで直人は彼女を部屋の中へ入れるのだが。「十二月のゾンビ」。
3年間付き合っていた麻美が別の男と付き合ったことを知り、かっとなった祐二は思わず首を絞めて殺してしまった。祐二は遠い山奥へ彼女を捨て、帰る途中の山道で事故を起こし、車がひっくり返ってしまった。なんとか外へ這い出た祐二は、歩いている途中で尼と出会い、山奥の寺に一晩泊まることとなった。「萩の寺」。
東ヨーロッパの某国で、原子力発電所が火災を起こした。大学生の鳥山は新聞記事でそのことを知り、文芸部の部室で伊東亜依子にそのことを知らせると、彼女は「チャイナシンドロームですね」と叫ぶ。鳥山は、後から来た窪田と一緒に「チャイナシンドロームだー」とふざけながら叫んで周る。外では灰が降り続けていた。「心地よくざわめくところ」。
1998年、第6回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した「お葬式」と、書き下ろし4編を収めた短編集。1999年12月、オリジナル文庫として刊行。
ホラー小説は苦手なのだが、短編賞受賞ということでとりあえず手に取ってみる。読み終わった感想は、それほど怖くないけれど面白い。
特に「お葬式」は、よくよく考えると怖い内容を、女子高生のライトな視線で描いているものだから、どことなくピントの外れたやり取りが笑いを醸し出す。もっともこれは、小説だから成り立つ世界かもしれない。映像にすると、そのギャップが激しくて納得できなくなる気がする。
「十二月のゾンビ」もお薦め。台詞だけ読むと、切ない恋物語のはずなのだが、実際の彼女は血だらけで目玉は垂れ下がっているゾンビ状態なのだから、そのギャップに笑い、どことなくほろりとしてしまう。
初めて読んだけれど、ユーモアホラーとでもカテゴライズをすれば良いのだろうか。ユーモアタッチで描かれていても、最後にゾクゾクと来るのがホラーだと思うのだが、この人の短編集は、怖いはずの非日常な世界を、登場人物がライトで現実的な言動で最後まで突き進むものだから、ニヤッと笑って終わってしまう。もっともそれは「十二月のゾンビ」くらいまでで、「萩の寺」はちょっとした仕掛けがあるとはいえ古典日本怪談の焼き直しにすぎず、「心地よくざわめくところ」はもうちょっとわかりやすく書いてもよかったのではないだろうか。できることなら、ずっと最初の作品と同じユーモアタッチのテイストで書いてほしかった。
それにしても手慣れた仕上がりだと思ったら、瀬川貴次名義で「聖霊狩り」シリーズなどのライトノベルを書いている人だった。どうりで巧いわけだ。