- 作者: 美達大和
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/07/16
- メディア: 新書
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第一章、第二章は刑務所における殺人者たちの「真実」、第五章は無期懲役囚の「真実」を記載している。多くの殺人者が「反省していない」ことについては、どこまで信用すればよいのかわからない。周りにいる同じ殺人者たちへのポーズがあるのかもしれないし、後悔していたとしても四六時中反省している人なんか、それこそいないだろう。どこまでが懲役囚の内面を表しているのかはわからないが、多かれ少なかれ反省していない人が間違いなくいることも事実だろう。犯罪の効率がよいかどうかはともかく、職を失ったりホームレスとなったりするよりは、衣食住が確保されている刑務所を終の棲家と考える犯罪者も多いだろう。特に第二章を読んで「人権派」がどう思うか、聞いてみたいところではある。
第三章については、頷いてしまうところもある。死刑の適用基準を下げるかどうかは人それぞれかもしれないが、幼児虐待に対する罪が軽いとか、三振法の導入などは検討の余地があると思う。犯人にもそれぞれ事情があることは否定しないが、だからといって同情ばかりするのは間違いだし、社会の責任だとばかり訴えるのは真面目に働いている人への冒涜だ。
第六章などの意見でも同調してしまうところは多い。「終身刑」を導入すれば受刑者は反省しなくなるだろうし、何をしても刑が変わらないのだから風紀が悪化することは間違いない。それは死刑でも同じだろうという人がいるかもしれないが、絶対数が違う。現在の死刑確定囚のみが終身刑となるわけではない。現在の無期懲役囚の中にも、存在すれば間違いなく「終身刑」を受けていたであろう受刑者は多く存在することは、裁判所の判決文を読んでも明らかだ。ましてや、執行を重ねることによって人数が減る死刑囚とは異なり、終身刑の受刑者は間違いなく年々増えていく。維持管理にかかる負担は年々増加していく。日本国民は、そんな多額の負担を担うために税金を払っているわけではない。弱者への視線は大事だが、多くの犯罪者は弱者ではない。その事実を受け入れようとしないものばかりが声を上げるから、終身刑や死刑廃止論が広がらないことをもっと真剣に考えるべきだろう。
第八章には見るべきところはない。少なくとも裁判員裁判がどういうものかを目の当たりにしたものでない限り、「実践的アドバイス」などということはできないと考えるからだ。被告の証言時、一挙手一投足を見続けることなど不可能だろう。
さて、この本のタイトルにある「死刑絶対肯定論」に当てはまるのは第四章と第六章である。"絶対"とまで書いているが、結局のところ「執行猶予付き死刑」の導入を提唱しているわけで、それほど目新しい論ではない。被害者への賠償の法制化なども、過去に言われてきたことだろう(多分)。死刑が「人間的な刑罰」かどうかはともかく、死と向き合うことで改悛の情が生まれるというのは昔から一部で言われていることだ。また犯罪抑止効果が条件によって変わるのも当然であるし、遺族の苦しみが一生続くことや執行を粛々と行うこともよく言われていることだ。一つ一つの意見は、インターネット上でも探し当てることができるだろう。それほど目新しい意見があるわけではない。
ただ、その論に説得力があるように見えるのは、やはり自らの境遇と体験が論の強化に繋がっているからであろう。死刑存続論にしろ廃止論にしろ、犯罪被害者が声を大にして叫ぶと耳を傾けてしまうのと同じように、当の犯罪者自身、それも凶悪な罪を犯した人物が声を挙げたという点が、今回の肯定論に繋がってくる。少なくとも、経験者が語ったという点で、この本を、この論を無視することはできないだろう。十年一日全く進歩のない死刑廃止論よりは勉強になった。
殺人や犯罪者処遇というテーマを扱っている以上、内容に残酷なところ、挑発的なところがあるのは仕方がない。ただ書き方自体はソフトであり、とても女性2人を殺した犯罪者とは思えない。所々でよく勉強しているよなと思わせる知識もさらりと出してくる。もっとも一作目、二作目の粗筋を読むと似たような単語が出てくることから、この人の引き出しがそんなにあると思えない。それに「はじめに」あたりを読むと、この本のタイトルを意図して書いたものとも思えないのだ。もしかしたら編集者によって文章がまとめられたり文体が書き変えられているのかもしれない。まあそれはともかく、この人からはスマートさが感じられる。作者には死刑廃止論の本を読んでもらい、議論を戦わせてほしいものだ。
出張先で読む本がなくなったので、前から気になっていた本を一気読み。うん、結構面白かった。気になるところもあったので、もう1回読んでみたいと思っているし、感想も書き直すかも知れない。他の作品も読んでみようと思う。