平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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結城昌治『裏切りの明日』(光文社文庫 結城昌治コレクション)

裏切りの明日―結城昌治コレクション (光文社文庫)

裏切りの明日―結城昌治コレクション (光文社文庫)

戦争と飢餓の厳しい少年時代を過ごした沢井は、不正と卑劣を憎む硬骨の刑事だった。しかし、沢井の心は、ある事件をきっかけに歪んでいく。沢井を悪の道に走らせたのは、金銭への欲望という、人生の陥穽(わな)だった。横領、背任、乗っ取り、手形詐欺、そして、殺人――。息もつかせぬ展開で、欲望に滅び去っていく一人の刑事の悲劇を描いた、クライムノベルの傑作。(粗筋紹介より引用)

連載時のタイトルである『穽』で1965年、カッパ・ノベルスより刊行。「結城昌治作品集」(朝日新聞社)収録時の1973年、本タイトルに改題された。



悪徳刑事を題材にしたクライムノベル。とはいえ、その主人公である沢井の過去から来る虚無感が読者に伝わってくることと、対象となる相手もまた悪いやつの方が多いことから、読者としては沢井に感情移入してしまう。まあそれでも結末を読んだら自業自得と思ってしまうところも作者のうまいところか。まあ最初のあたりはいくら当時としても金額が少なくて、せいぜい利便を図った程度にしか感じられないけれどね。

株取引や会社乗っ取りなど、どちらかといえば経済犯罪小説に使われる題材を選んでいるせいか、登場人物は暴力系ではなくて知能犯罪者が多いことも、単なる悪徳刑事物とは一線を画しているところと思われる。

それにしても、刑事という強い立場にありながら、犯罪に手を染める動機や途中の情事、それに結末など、男としての弱さを見せつけてくれるところは、同じ男として正直怖いね。