- 作者: 加賀美雅之
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/08/22
- メディア: 新書
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「Kappa One 登竜門」でデビューした作者の第三作目。
前二作は、時代がかったセリフもそんなに気にならなかったのだが、本作は一つ一つが気にさわった。特に解決部分でパットが「ああ!」を連発させるのを見ると、こいつは驚く感嘆詞がこれしかないのかと思ってしまう。それに修飾語が大げさすぎ。「凄惨な惨劇」とか連発されるとさすがに引いてしまう。過剰な修飾語などを減らせば、1/4は薄くなるんじゃないかと思ってしまった。
「人間業とは思えぬ殺害現場」を多用するのはかまわないが、その解決に「偶然」が連続して使用されるのは興醒めでしかない(前回は違うことを言っていた気もするが)。せっかくの不可能犯罪の面白さが半減してしまう。不可能犯罪は、冷酷な犯罪者が徹底的に計算したものを、名探偵によって華麗に解き明かしたとき、その“不可能”さが倍増するものなのだ。もちろん例外もあるが。
事件の骨格そのものが、参考文献にも挙げられているけれど、某作品そっくり。登場人物のガジェットはあとがきにもあるとおり『犬神家の一族』だが、事件全体のパターンは某作品そのものである。これ以上登場人物を増やされても困るが、もう少しカモフラージュする方法は思いつかなかったのだろうか。
この作品、ベルトランが到着したら、アッという間に事件が解決してしまう。そこに推理は存在しない。まあ、生き残った登場人物を見れば犯人の名前はすぐに浮かぶだろうが(苦笑)、現場をちょっと見ただけで犯人と犯行方法がわかってしまうというのは、「伝説の巨人の影」までが登場するような本作の場合、不可能度数が大幅に減ってしまいマイナスに働いたと思う。
こうやって書いていると、作品の粗ばかりがどんどん見えてくる。ほめるところを探したいのだが、今回は全く見あたらない。先人が作った本格探偵小説という型から一歩もはみ出すことなく、先人が辿った道をただなぞるように歩くだけ。そこには新しい工夫が全く見受けられない。一、二作ならオマージュとして許されるだろうが、さすがに三作目となると、どこかに新しいものが必要だろう。しかも本シリーズは、カーが産んだバンコランもののパスティーシュとして発表されているのである。大作家の名探偵を借りているのだから、そこに何らかの付加価値がない限り、先人を越えることは難しいし、賛同を得られることもない。
少なくとも面白い本格探偵小説を書こうという意欲はあるのだから、過去に頼るばかりではなく、もっと新しいものを産み出そうという努力をしてほしい。
最後に一つ。これを言っちゃいけないのだろうが、一人目が殺害された時点で、すぐに明かすんじゃないか?