- 作者: 大薮春彦
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1989/01
- メディア: 文庫
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市長が絡んだ埋め立て地を巡る二大勢力の対立に雇われた二人の殺し屋。「殺人請け負います」。殺し屋の強かさがよく出ている。
パクリ屋の社長が取引で支払った8000万円を奪い取ること。社長の腹心の部下三人とともにその仕事に当たることになった流れ者のプロであったが。「破局」。仕事の裏、そして復讐劇の迫力は見事。
銀行を襲って700万円を手に入れた三人組が、警察に追われて逃げ込んだのは人里離れた山小屋。そこには一組の男女が住んでいた。「夜明けまで」。本短編集のベスト。結末までの意外な展開が面白い。ページ数の関係か説明不足なところが多い収録作品の中で、本作品は事件背景や心理描写が過不足なく書き込まれている。
貸しビル経営者の兄が殺された。犯人はすぐに自首したが、黒幕は別にいるはず。射撃の名手である弟は事件の真相を追求する。「手負い猪」。大藪得意の復讐もの。ページが少ないので、結末がやや呆気ない。
右翼の大物を殺害する約束を請け負った二人。襲った車にはなぜか大物は乗っておらず、代わりに大物の娘が乗っていた。「約束は守った」。意外な展開があるものの、ページ数が短いので面白さはもう一つ。
汚い下宿で話し込む学生三人。一人がライフル銃を買ったことから、なぜか首相たちを狙撃する話になる。「テロリストの歌」。飲み会の戯れ言みたいな発言から、どんどん後に引けなくなって暴走する三人の姿がなぜかおかしい。作者にしては異色作。
仲間とともに金や宝石を強奪した元日本チャンピョンのボクサー。相棒の名前や金の隠し場所をしゃべらずに5年服役した府中刑務所から出所した日、待っていたのは昔の彼女であった。「墓穴」。大藪以外の作家が手がけそうなネタである。そのせいかどうかはわからないが、展開は単純。
捜査課のデカである三村。彼は悪人の上前をはねる悪徳刑事であった。「黒革の手帳」。作者としては意外と少ない悪徳刑事物。できればこれはシリーズ化してほしかったが。
ガソリンスタンドで働く青年二人がドライブ途中で刑事に車を変えてほしいと依頼される。捜査のためということだったが、待ち受けていたのは銃撃だった。「生け贄」。展開はわりと面白いのだが、一介の青年による復讐劇というのはちょっと無理があった。
悪徳利権屋の娘を誘拐した“影”の男。裏にあるのはケーブルカー施設落札に絡む利権争いか。「影の影」。事件の真相は意外だが、短いページでは展開が早すぎる。
大藪の魅力のひとつはこだわりの書き込みにあると思うので、短編では大藪の魅力が発揮されにくい。饅頭のあんこだけを食べても美味しいわけではなく、やはり皮も一緒に食べなければ饅頭のおいしさは味わえない。大藪の短編は、小さい饅頭を作ろうとせず、中のあんこだけを提供してくれる(違う作品もあるが)。この人の持ち味は、やはり長編にある。そんなことを再認識させてくれる。