名探偵はもはやミステリー・ファンだけの憧れのヒーローではなくなった。テレビのクイズにも、明智小五郎や金田一耕助が出題される時代である。ポピュラーな名探偵の名前は、今や一般常識になっていると言ってもさしつかえない。そうした知識に疎いようでは、今後は現代人としてのセンスに欠けるということになるかもしれない。
本書はその意味での広範囲な読者を対象に、内外のおびただしい作品に登場する名探偵を一堂に集め、彼らの個性的なキャラクターや探偵法の特色などを、紳士録風に紹介したものである。私立探偵あり、女流探偵あり、現役の刑事や警察官ありで、さまざまなタイプに分かれ、文字通り、世界の名探偵のせいぞろいと言っていい。
これまでにも、彼らについて触れた類書はあるが、まだ一冊にまとまったものはなく、その意味で本書が決定版になるのではないかと、いささか自負している。それに、推理作家諸氏や大学ミステリー連合の諸君のベスト・テン、名探偵年表、名探偵クイズなどを付して、その点でも楽しんでいただけるように工夫したつもりだ。
したがって、一般の読者には名探偵のガイド・ブック、マニアの読者には格好の名探偵辞典となるはずである。ミステリー通と自負される方は、索引に挙げた名前のうちはたして何人知っているかを試してみられるのも一興だろう。
(後略)
(「まえがき」より抜粋)
1977年3月刊行。執筆協力スタッフ、青山学院大学推理小説研究会。
名探偵の国籍、初登場年、主要登場小説、生みの親、職業or勤務先、そして名探偵を取り巻く経緯やエピソード、探偵法、さらには生みの親である作家のエピソードなどが2〜3ページに渡って、名探偵のイラスト入りで書かれている。登場する名探偵は内外合わせて48人。海外ではコロンボを除くとカート・キャノンが一番新しいというのは、1977年に編集されたわりには少々古いセレクトである。国内では中村雅楽、物部太郎、吉田警部補といった珍しいところが掲載されている反面、若さま侍、むっつり右門という意外なセレクトもある。
「まえがき」では『彼らについて触れた類書はあるが、まだ一冊にまとまったものはなく』と書かれてあるが、すでに藤原宰太郎『世界の名探偵五十人』という類作があるので、必ずしも「決定版」と言い切れるものではない。名探偵のガイド・ブックというからには、もう少し新しめの名探偵を入れてほしかったところである。
内容としては、可もなく、不可もなくといったところか。大学の研究会が協力しているにも関わらず、マニアックな視点がないのには好感が持てる。それに『黄色の部屋』のルールタビイユが、連載初期は違う名前だったといったエピソードが載っているところは嬉しい。
本書で嬉しいのは、付録に載っている「映画に出演した名探偵たち」「名探偵年表」である。ブラウン神父が映画になっていたとはびっくりした。それに『刺青殺人事件』も映画になっているんだね。これは一度見てみたい。
一度読んでみても損はしない。そんな一冊ではある。